8月9日(月)17:00-19:00
JOAハウス・クロージング「JOAフォーラム」
テーマ:「東京2020大会を評価する」
コーディネーター:野上玲子(JOA会員)
概要:「東京2020大会」のオリンピック閉会式後に、このコロナ禍の東京大会の中途ですが、一旦評価をしたいと思います。ジェンダー平等、政府の対応、そして平和の祭典が単なるコロナ禍の祭典になっていなかったかどうかなどなど、いくつかのサブテーマに応じて、自由に意見交換をしましょう!最後にこの「東京2020大会」によって何が継承(警鐘?)され、子どもたちに何を残せたのか、をまとめることによりフォーラムを閉じました。
参加者数34名(最大時)
(参加申込み者数 国内35名 海外18名)
<タイムスケジュール>
PartⅠ:17:00~18:00
1.学術研究者による情報提供、意見表明
「東京2020大会におけるジェンダー平等を評価する」
・松宮智生氏
(清和大学法学部准教授、スポーツ哲学、スポーツ法、スポーツとジェンダー)
(1)トランス・ジェンダーのアスリートをめぐるIOCのルール
- 女子重量挙げでトランス女性として参加したニュージーランド代表のローレル・ハバード選手が話題となった。
- ハバード選手は、IOCが定める規定の条件(テストステロンの抑制等)を満たして参加に至ったが、女子アスリート団体などからは批判的な訴えもあった。
- IOCは、トランス女性の競技参加に関する新たな枠組みを年内に策定し、各国際競技団体に提示する予定である。
(2)DSD(Differences of Sex Development)のアスリートをめぐる世界陸連のルール
- ナミビア陸上女子代表のクリスティン・エムボマ選手とベアトリス・マシリンギ選手は、世界陸連が定めるテストステロン値の基準を超えたため、400mから200mへ種目変更を余儀なくされた。
- また、エムボマ選手が200mで銀メダルを獲得したため、メディアでは「物議醸す新規定」「性分化疾患選手への議論再燃」などと報道された。
- 以前から話題となっていた南アフリカ陸上女子800m金メダリストのキャスター・セメンヤ選手は、テストステロン値を抑制することを参加条件とするDSD規定の不当性を訴えていたが、スポーツ仲裁裁判所は、同規定が「差別的だが、公平性を守るために必要」との裁定を下し、彼女の訴えは認められなかった。
- 現在、セメンヤ選手は欧州人権裁判所に提訴中である。
(3)まとめ:インクルージョン、公平性、身体的インテグリティ
- IOCによるトランス女性選手の参加基準はどのように策定されるのか、今後の動向に注視したい。
- 欧州人権裁判所は、セメンヤ選手の訴えに対してどのような判決を下すのか、注目したい。
- スポーツにおける性別二元制の現状は、男子はオープン(無差別級)、女子は一般社会とは異なる「スポーツ独自の(限定された)女子」となりつつある。
- トランス女性やDSD女性のスポーツ参加をめぐっては、多様性や公平性の観点から議論がされているが、「身体的インテグリティ」の視点も必要。ルールやポリシーの策定にあたっては、「身体的インテグリティ」を侵害しない新たな基準を設ける必要がある。
- 「身体的インテグリティ」を侵害する医学的介入は道徳的に許されない。したがって、DSD規定は廃止すべきである。
- 多様な性のあり方の尊重について、「身体的インテグリティ」の観点から、スポーツから社会への投げかけができるのではないだろうか。
2.学術研究者による情報提供、意見表明
「東京2020大会が『歴史』となるその時に向けて:
『神話』化へのささやかな抵抗の表明」(仮)
・冨田幸祐氏
(日本体育大学オリンピックスポーツ文化研究所助教、スポーツ史、スポーツ社会学)
(1)歴史としての1964年東京大会
- 高度経済成長と戦後復興、世界への新生日本のアピール(と共に語られる)が一体となった64年大会は、「内向きに歴史化された」大会であった。
- 64年大会は、大会会期中にソ連のフルシチョフの失脚や中国の核実験成功といった世界史の事件に限らず、国際政治の影響によりインドネシア、北朝鮮、中国、北ベトナム、南アフリカが不参加、東西ドイツチームの参加問題など、政治問題の渦中で開催されていた。
- 大会終了後に亡命を求める選手も存在した。
- 政治的な問題を抱える中での大会であったが、これらの外向きの経験は内向きの経験と圧着されることなく「内向きの歴史経験」として遺されている。
(2)東京2020大会と政治
- 招致プレゼン、引き継ぎ式、延期の決定、開催可否に関する言及など、やたら?首相が目立つオリンピックとなっている。
- 一方で、オリンピック担当大臣の存在感がない。
- 宮内庁による天皇のコロナ禍での開催における「懸念」の表明と、天皇による近代オリンピアードを「記念」する宣言。この「懸念」と「記念」が向けられた先とは一体どこだったのか。そして、これらが政治問題として取り上げられることこそ今回のオリンピックの異様さを象徴しているのでは。
- 64年大会と比べて、政治色の強いオリンピックとして現れているように思える。オリンピック(スポーツ)と政治との距離は改めて申すまでもなく共時的、通時的な検討課題である。
(3)まとめ:2021年、東京オリンピック、コロナ
- 64年大会からの教訓として東京2020大会が「内向きの歴史経験」とだけなってしまってはいけない。
- 2021年の中で、東京2020大会がいかなる位置を占めるものであったかを検証しなければならない。
- 「コロナ禍で開催された東京2020大会」という事実に収斂されてしまってはならない。
- 世界にとっての東京2020大会の経験のありようを考えていかなければならない。
Part Ⅱ:18:00~18:30
openingテーマ「東京2020大会に期待すること/期待すべきこと」を
評価する
・飯塚俊哉氏(JOA会員)
- 7月24日(土)に開催されたオープニングフォーラムの内容を総括した。
- 1936年に砲丸投げの日本代表選手としてベルリンオリンピックに出場し、その後、出身地の広島で被爆した高田静雄氏を特集したラジオ番組も紹介。NHK広島放送局(ラジオ第1)原爆の日ラジオ特集「被爆オリンピアンが遺したメッセージ~スポーツの力は分断を越えられるか~」(8月9日、全国放送/午後8時5分~午後9時55分)
- オープニングフォーラムの詳細な内容は、コーディネーターを務めた飯塚氏作成による報告レポートをご参照ください。(現在準備中)
Part Ⅲ:18:30~19:00
登壇者・参加者によるクロストーク
「東京2020大会における評価と未来への継承(警鐘?)とは」
- 開会式・閉会式において、重要な「平和」へのメッセージが届けられていない。
- 日本は、広島市からも要請のあったように被爆国としての役割やメッセージを発信すべきであるが、それが閉会式でのパフォーマンスからも読み取ることはできなかった。
- IOCの独裁的な指示により、日本政府や「東京2020大会」組織委員会は意見表明する立場になかった。
- スイスの任意団体であるIOCという組織を管理するために、外部監査を含め厳しい目が必要なのではないか。一応、IOCのマーケティング報告書では外部監査が入っていることにはなっているが。
- 「東京2020大会」組織委員会の公式ウェブサイトにおけるNOC/地域別(国別)メダルランキング表の掲載について、JOAからIOCおよび組織委員会にオリンピック憲章違反であるという意見書を提出した。しかし、HPはIOCの管理のもとで運営され、決められたフォーマットに従わなければならない、従来からも掲載されているとの回答により、ランキング表はそのまま掲載されている。
- スケートボードなどのアーバンスポーツ系新競技における若いアスリートたちの活躍が、スポーツ文化の原点が遊び、気晴らしや楽しみであること、国を超えたリスペクトなどを再確認させるとともに、大会を盛り上げていた。
- 「オリンピズムの普及と浸透」を中長期の目標として掲げて活動するJOAとしては、今回報告のあった外国のNOAのように、今後、メディアやオリンピアンへのオリンピック教育を実施していくことにより、その役割や目標を成し遂げていけるのではないだろうか。当然、子どもたちや若者たちに向けたオリンピック教育は今後も続けていく必要がある。
コーディネーター(野上会員)による総括コメント
今回の「東京2020大会」では、アスリートたちによる競技や国の枠を超えて互いのプレーを讃え合うシーンが多く観られました(継承)。しかし、「オリンピックをやってよかった」と素直に喜べることばかりではなく、オリンピズムの根幹である「平和」の理念が目に見える形で表現されていなかったこと、IOCの権威主義、日本政府や組織委員会の民意を無視した対応など、様々な問題が浮き彫りとなりました(警鐘)。こうした批判的な議論も含めて、子どもたちにオリンピックのあらゆる視点を伝え、平和と教育の両輪を回していく必要性を改めて感じました。クロストークでは、多くの意見が飛び交い、大変有意義な時間でした。この度は、ありがとうございました。
クロージング
「JOAハウス」実行委員長 舛本直文氏(JOA副会長)
主催:NPO日本オリンピックアカデミー(JOA)
https://olympic-academy.jp/