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参加の部屋

クロージング・JOAフォーラム

8月9日(月)17:00-19:00
JOAハウス・クロージング「JOAフォーラム」

テーマ:「東京2020大会を評価する」

コーディネーター:野上玲子(JOA会員)

概要:「東京2020大会」のオリンピック閉会式後に、このコロナ禍の東京大会の中途ですが、一旦評価をしたいと思います。ジェンダー平等、政府の対応、そして平和の祭典が単なるコロナ禍の祭典になっていなかったかどうかなどなど、いくつかのサブテーマに応じて、自由に意見交換をしましょう!最後にこの「東京2020大会」によって何が継承(警鐘?)され、子どもたちに何を残せたのか、をまとめることによりフォーラムを閉じました。

参加者数34名(最大時)
 (参加申込み者数 国内35名 海外18名)

<タイムスケジュール>

PartⅠ:17:00~18:00
1.学術研究者による情報提供、意見表明
「東京2020大会におけるジェンダー平等を評価する」
・松宮智生氏
 (清和大学法学部准教授、スポーツ哲学、スポーツ法、スポーツとジェンダー)

(1)トランス・ジェンダーのアスリートをめぐるIOCのルール

  • 女子重量挙げでトランス女性として参加したニュージーランド代表のローレル・ハバード選手が話題となった。
  • ハバード選手は、IOCが定める規定の条件(テストステロンの抑制等)を満たして参加に至ったが、女子アスリート団体などからは批判的な訴えもあった。
  • IOCは、トランス女性の競技参加に関する新たな枠組みを年内に策定し、各国際競技団体に提示する予定である。

(2)DSD(Differences of Sex Development)のアスリートをめぐる世界陸連のルール

  • ナミビア陸上女子代表のクリスティン・エムボマ選手とベアトリス・マシリンギ選手は、世界陸連が定めるテストステロン値の基準を超えたため、400mから200mへ種目変更を余儀なくされた。
  • また、エムボマ選手が200mで銀メダルを獲得したため、メディアでは「物議醸す新規定」「性分化疾患選手への議論再燃」などと報道された。
  • 以前から話題となっていた南アフリカ陸上女子800m金メダリストのキャスター・セメンヤ選手は、テストステロン値を抑制することを参加条件とするDSD規定の不当性を訴えていたが、スポーツ仲裁裁判所は、同規定が「差別的だが、公平性を守るために必要」との裁定を下し、彼女の訴えは認められなかった。
  • 現在、セメンヤ選手は欧州人権裁判所に提訴中である。

(3)まとめ:インクルージョン、公平性、身体的インテグリティ

  • IOCによるトランス女性選手の参加基準はどのように策定されるのか、今後の動向に注視したい。
  • 欧州人権裁判所は、セメンヤ選手の訴えに対してどのような判決を下すのか、注目したい。
  • スポーツにおける性別二元制の現状は、男子はオープン(無差別級)、女子は一般社会とは異なる「スポーツ独自の(限定された)女子」となりつつある。
  • トランス女性やDSD女性のスポーツ参加をめぐっては、多様性や公平性の観点から議論がされているが、「身体的インテグリティ」の視点も必要。ルールやポリシーの策定にあたっては、「身体的インテグリティ」を侵害しない新たな基準を設ける必要がある。
  • 「身体的インテグリティ」を侵害する医学的介入は道徳的に許されない。したがって、DSD規定は廃止すべきである。
  • 多様な性のあり方の尊重について、「身体的インテグリティ」の観点から、スポーツから社会への投げかけができるのではないだろうか。

2.学術研究者による情報提供、意見表明
「東京2020大会が『歴史』となるその時に向けて:
    『神話』化へのささやかな抵抗の表明」(仮)
・冨田幸祐氏
 (日本体育大学オリンピックスポーツ文化研究所助教、スポーツ史、スポーツ社会学)

(1)歴史としての1964年東京大会

  • 高度経済成長と戦後復興、世界への新生日本のアピール(と共に語られる)が一体となった64年大会は、「内向きに歴史化された」大会であった。
  • 64年大会は、大会会期中にソ連のフルシチョフの失脚や中国の核実験成功といった世界史の事件に限らず、国際政治の影響によりインドネシア、北朝鮮、中国、北ベトナム、南アフリカが不参加、東西ドイツチームの参加問題など、政治問題の渦中で開催されていた。
  • 大会終了後に亡命を求める選手も存在した。
  • 政治的な問題を抱える中での大会であったが、これらの外向きの経験は内向きの経験と圧着されることなく「内向きの歴史経験」として遺されている。

(2)東京2020大会と政治

  • 招致プレゼン、引き継ぎ式、延期の決定、開催可否に関する言及など、やたら?首相が目立つオリンピックとなっている。
  • 一方で、オリンピック担当大臣の存在感がない。
  • 宮内庁による天皇のコロナ禍での開催における「懸念」の表明と、天皇による近代オリンピアードを「記念」する宣言。この「懸念」と「記念」が向けられた先とは一体どこだったのか。そして、これらが政治問題として取り上げられることこそ今回のオリンピックの異様さを象徴しているのでは。
  • 64年大会と比べて、政治色の強いオリンピックとして現れているように思える。オリンピック(スポーツ)と政治との距離は改めて申すまでもなく共時的、通時的な検討課題である。

(3)まとめ:2021年、東京オリンピック、コロナ

  • 64年大会からの教訓として東京2020大会が「内向きの歴史経験」とだけなってしまってはいけない。
  • 2021年の中で、東京2020大会がいかなる位置を占めるものであったかを検証しなければならない。
  • 「コロナ禍で開催された東京2020大会」という事実に収斂されてしまってはならない。
  • 世界にとっての東京2020大会の経験のありようを考えていかなければならない。

Part Ⅱ:18:00~18:30
 openingテーマ「東京2020大会に期待すること/期待すべきこと」を
 評価する
・飯塚俊哉氏(JOA会員)

  • 7月24日(土)に開催されたオープニングフォーラムの内容を総括した。
  • 1936年に砲丸投げの日本代表選手としてベルリンオリンピックに出場し、その後、出身地の広島で被爆した高田静雄氏を特集したラジオ番組も紹介。NHK広島放送局(ラジオ第1)原爆の日ラジオ特集「被爆オリンピアンが遺したメッセージ~スポーツの力は分断を越えられるか~」(8月9日、全国放送/午後8時5分~午後9時55分)
  • オープニングフォーラムの詳細な内容は、コーディネーターを務めた飯塚氏作成による報告レポートをご参照ください。(現在準備中)

Part Ⅲ:18:30~19:00
登壇者・参加者によるクロストーク
「東京2020大会における評価と未来への継承(警鐘?)とは」

  • 開会式・閉会式において、重要な「平和」へのメッセージが届けられていない。
  • 日本は、広島市からも要請のあったように被爆国としての役割やメッセージを発信すべきであるが、それが閉会式でのパフォーマンスからも読み取ることはできなかった。
  • IOCの独裁的な指示により、日本政府や「東京2020大会」組織委員会は意見表明する立場になかった。
  • スイスの任意団体であるIOCという組織を管理するために、外部監査を含め厳しい目が必要なのではないか。一応、IOCのマーケティング報告書では外部監査が入っていることにはなっているが。
  • 「東京2020大会」組織委員会の公式ウェブサイトにおけるNOC/地域別(国別)メダルランキング表の掲載について、JOAからIOCおよび組織委員会にオリンピック憲章違反であるという意見書を提出した。しかし、HPはIOCの管理のもとで運営され、決められたフォーマットに従わなければならない、従来からも掲載されているとの回答により、ランキング表はそのまま掲載されている。
  • スケートボードなどのアーバンスポーツ系新競技における若いアスリートたちの活躍が、スポーツ文化の原点が遊び、気晴らしや楽しみであること、国を超えたリスペクトなどを再確認させるとともに、大会を盛り上げていた。
  • 「オリンピズムの普及と浸透」を中長期の目標として掲げて活動するJOAとしては、今回報告のあった外国のNOAのように、今後、メディアやオリンピアンへのオリンピック教育を実施していくことにより、その役割や目標を成し遂げていけるのではないだろうか。当然、子どもたちや若者たちに向けたオリンピック教育は今後も続けていく必要がある。

コーディネーター(野上会員)による総括コメント

今回の「東京2020大会」では、アスリートたちによる競技や国の枠を超えて互いのプレーを讃え合うシーンが多く観られました(継承)。しかし、「オリンピックをやってよかった」と素直に喜べることばかりではなく、オリンピズムの根幹である「平和」の理念が目に見える形で表現されていなかったこと、IOCの権威主義、日本政府や組織委員会の民意を無視した対応など、様々な問題が浮き彫りとなりました(警鐘)。こうした批判的な議論も含めて、子どもたちにオリンピックのあらゆる視点を伝え、平和と教育の両輪を回していく必要性を改めて感じました。クロストークでは、多くの意見が飛び交い、大変有意義な時間でした。この度は、ありがとうございました。

クロージング
「JOAハウス」実行委員長 舛本直文氏(JOA副会長)

主催:NPO日本オリンピックアカデミー(JOA)
    https://olympic-academy.jp/

   

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参加の部屋

ドイツ・イブニング報告

2021年8月5日(木)17:00-19:00

テーマ:German Olympic Academy(DOA):
 Five Rings – One Idea – Many Ideals
コーディネーター:舛本直文+岩瀬裕子(JOA会員)
講師:Holger Preuss(ホルガー・プロウス)

ドイツ・イブニング

参加者29名(最大時)
 参加申込み者数:国内23名、海外37名)

概要:

ドイツのオリンピック・アカデミー(DOA)の活動紹介を中心に情報提供して頂きました。IOAとの連携プログラムだけでなく、ドイツのNOCや政府との連携プログラムについて情報提供頂きました。また、IOCのサステナビリティ&レガシー委員会の委員としての活動の他、レガシー・キューブに代わるレガシー・フレームの概要について情報提供して頂きました。

テーマ:「ドイツオリンピック・アカデミー(DOA):5つの輪―1つの理念―多くの理想(German Olympic Academy(DOA): Five Rings – One Idea – Many Ideals)」からの学び

1.はじめに

 本報告は「ドイツ・イブニング」の概要を共有するとともに、第32回オリンピック競技大会(2020/東京)と東京2020パラリンピック競技大会(以下、東京2020大会)開催後のオリンピック教育のありかたやレガシーなどを考えていくための契機として、ホルガー・プロウス(Dr. Holger Preuss。以下、プロウス氏、写真1)ドイツオリンピック・アカデミー(以下、DOA)理事会理事と参加者との対話を位置づけるものである。

写真1 日本の風景を背景に登壇するホルガー・プロウスDOA理事

2.開催概要

「ドイツ・イブニング」は、舛本直文JOAハウス実行委員会委員長(JOA副会長)を中心として開催された「バーチャルJOAハウス」において6つあった「参加の部屋」のうち、クロージング(2021年8月9日)の一つ前にあたる8月5日(木)の午後5時から2時間強にわたって開催された。和田恵子JOA理事、会場の提供にご支援・ご協力を賜った落合恒武蔵野大学理事、そして通訳の本間郁子氏のご尽力のもと、最大時29名(事前申込者数:国内23名、海外37名)を集め、オンライン(Zoom)で実施された。

「ドイツ・イブニング」の登壇者は、DOA理事会理事のプロウス氏であり、教授の経歴については舛本委員長の開催概要に詳しいが、現在、同氏は国際オリンピック委員会(以下、IOC)のサステナビリティ&レガシー委員会のメンバーであり、後述するように、当日も、該当領域に関する最新動向が示された。
 以下は、プロウス氏の発表資料の翻訳を担当したコーディネーターの一人である報告者による、同氏の発表内容の抜粋である。

 まず、DOAは、ドイツオリンピック委員会(DOC)からオリンピック憲章に基づくNOCの役割(規則27:「自国において、特にスポーツと教育の分野で、オリンピズムの根本原則とその価値を向上させる。この目的のために、あらゆるレベルの学校、スポーツ ・ 体育の教育 機関および大学においてオリンピック教育プログラムを推進する。さらに、国内オリンピック・ アカデミー、 オリンピック博物館など、オリンピック教育を専門に担う機関の設立と、文化的なものを含めたオリンピック・ムーブメントと関連するその他のプログラムを奨励する」)を引き継ぎ、2007年に独立機関としてフランクフルト・マインに誕生した。したがって、DOAは①ドイツ政府からの援助に加え、それまでオリンピック教育にかかわるアカデミーを担当していた②DOCからの資金、少額ながら③メンバーの会費、④プロジェクトごとのスポンサー資金と政府援助から財政的に成り立っている。つまり、DOAとDOCの仕事に重複もなければ、両者は競争関係にあるわけでもない前向きなものだと、プロウス氏は語る。

 そもそもドイツには日本同様、さまざまなスポーツ関連機関があった。しかし、1966年以降、それらが統合され、DOAを含めたドイツオリンピックスポーツ連盟(以下、DOSB)として資金調達を担ってきた。つまり、DOCは一つの部門のようなものなのである。 

 現在、DOAには8名の理事(男女4名ずつ)がおり、議長は女性のグドラン・ドル=テッパー教授でDOSBの教育およびオリンピック教育担当の副会長でもある。ルールとしてDOAの理事会議長はDOCと関わりを持つようになっており、DOAのタスクがDOCとの物理的な関係のもとに進むようになっている。DOAは50以上の組織からなっており、プロテスタント教会のワークグループである「教会とスポーツ」などとも関わりを持ってスポーツを通じた価値を教育している。

 DOAは①オリンピック・ムーブメント、パラリンピック・ムーブメントなど様々な側面におけるスポーツの基本的問題を扱い、②スポーツの現在および全体的な問題に関するイベントの開催と声明の作成、③DOSBや他の組織、ドイツオリンピック・アカデミーのメンバーの意見収集、④オリンピック教育に関する施策と教材の開発、⑤オリンピック・ムーブメントの歴史とその文化的、哲学的、教育的側面の研究、⑥欧州オリンピック・アカデミー(以下、EOA)と国際オリンピック・アカデミー(IOA)との緊密な連携を担っている。具体的には、IOC設立を記念するオリンピックデーの開催、ヘッセン内務省との協力によるビープリッヒ城における講演、ドイツスポーツフェアプレー賞の贈呈、小学から高校までの教員養成講座(隔年開催。教育とドーピング防止を重視)、各種会議・国際ワークショップ・学術セミナーの開催、ドイツのオリンピックメダリストの再会の場の提供、アカデミックケーススタディコンテストなどを実施している。

 当日は、過去のオリンピックデーや2002年以来、夏・冬のオリンピック期間中に継続しているドイツオリンピックユースキャンプの様子が写真を交えて紹介されたが、残念ながら、新型コロナウィルスの影響で、計画されていた東京での第1回 日独合同ユースキャンプが中止になり、ドイツの参加者のみが、現在、フランクフルトでキャンプを実施中であることが報告された。また、1988年以降、オリンピックの価値などを学ぶ教材をドイツ国内の小・中学校に提供し続けていることや毎大会、スポーツだけでなく開催地の歴史や 文化、ドイツとの関係性などについて学んだ上で参加できるよう「オリンピア・コンパクト」と呼ばれる冊子を作成して参加アスリートなどに配布していること、オリンピック大会における重要かつ政治的な瞬間や文化とスポーツ、科学主義や成長などといったさまざまなトピックを網羅したポスターを作成し、希望する人や団体に配布していることなどが精力的に説明された(写真2)。さらに現在のDOAでは「オリンピックがいかに教育に寄与するか」といった出 版物に取り掛かっていることも共有された。

写真2 DOAが注力する出版物

 さらにプロウス氏の発表では、IOAの関連業務に加え、ドイツ学校スポーツ財団が主催するオリンピックとパラリンピックのユーストレーニングといった毎年80万人が参加する世界最大の学校スポーツ大会での支援プログラムや欧州の各国アカデミーとの協働促進やプログラムの検討などを行っているEOAなどについても言及された。

 DOAはオリンピック関連のコンサルタントと文書化の活動も行っており、例えば、ドイツのオリンピック大会への招致活動を補佐している。現在、ドイツは 過去7回、オリンピック大会の招致に負けている。G7とG8の国の中では唯一、1972年以降50年間、全くオリンピックを開催していない国である。具体的には、オリンピックの歴史やユースキャンプの組織づくり、価値などの相談を受けている。DOAではデジタル化を進めており、TwitterやFacebook、SNSなどの発信に、専任の担当を置いて広報活動に力を入れていることが伝えられた。

3、参加者との対話から

 プロウス氏の多岐にわたるプレゼンテーションに続き、参加者の質問コーナーが1時間以上にわたって設けられた。まずはじめに、舛本委員長から、現在にも引き継がれている「学校での教育プログラム」というアイディアの創始者であるノルベルト・ミューラー氏について質問が始められ、プロウス氏からは、ミューラー氏はDOAでは活動されていないものの、依然、お元気であるという返答がなされた。ミューラー氏は、周知のとおり、国際ピエール・ド・クーベルタン委員会の元会長であり、IOCの教育・文化を担当され、クーベルタン研究にも従事されたオリンピック教育では有名な研究者である。ドイツでは、1988年、1990年あたりから始められたが、各国NOCが現在のようなオリンピック教育を始めるきっかけを作ったミューラー先生にまず触れたことは、プロウス氏の「Good」という控え目な言葉選びながらも、氏の誇らしさを表すような応答であった。と同時に、オリンピック教育分野でのドイツの国際的な貢献を称えつつ、プロウス氏と長く親交を深めている舛本委員長ならではの粋なはからいでもあった。

 続く青柳委員は、ドイツの各州がそれぞれの教育システムを管理していて個性がありオリジナリティあふれるカリキュラムを実施していることに触れ、ドイツではオリンピック教育をすることが自由で選択可能なのか、義務なのか、また、どのようなオリンピック教育の普及の仕方をDOAが目指しているのかがプロウス氏に投げかけられた。プロウス氏からは、各州ともオリンピックの価値――例えば、フェアプレイ精神や反人種差別、異文化理解――をカリキュラムの中で教えられるものの、オリンピック教育そのものについては時間を割くことができないため、例えば、DOAの教材を使うのか、あるいはそれ以外の教材、例えば、FIFAの「フットボール・フレンドシップ」という教材でフェアプレイを教えるのかなど、教師に委ねられているとのことであった。そして、DOAではドイツにある16州の担当者それぞれと関係を構築しており、当局のホームページにDOAのリンクを貼ってもらいDOAの教材が各学校の教師たちに紹介されることに成功している。教材に関しては商業主義がないかなどの審査を経るが、州からの紹介で学校に教材に行きわたりオリンピック教育が可能になるため、DOAとしては各州の担当省庁とのかかわりを持ち、教材を広められることはありがたいとの回答であった。加えて、それぞれの教師は、毎年、研修を受けることになっていて、受講するとポイントを得ることになっている。どこのどういう研修を受けるかは教師が選べるが、DOAは州と協力してその研修のクラスを公式のものとして提供している。教師はその公式の研修を受ければ、よりハイレベルの資格を取れるポイントを得られるようになっている。つまり、年間を通して、教師は州に認定されたクラスを受けるが、このクラスが公式であるということが重要であり、そうでないと教師にDOAのクラスへの興味を持ってもらえず、ただの休暇になってしまうと加えられていた。

 三人目の質問者は社会人類学を専門にしている報告者であった。ドイツにはフェラインと呼ばれる伝統的なスポーツクラブが多数あるが、DOAが進めるオリンピック教育の普及活動とそれらのクラブとは関係があるのか。第二に、世界史におけるドイツとオリンピックの関係性を念頭に、ドイツに特徴的なオリンピック教育のありかたがあるとプロウス氏は考えているかどうかをたずねた。報告者自身、同時刻に並行した会議が入ってしまいチャットでの質問になったため、そのような疑問を抱いた背景について顔をあわせてプロウス氏に伝えられなかったことが悔やまれる。しかし、東京2020大会開催にあたり、反対派からは、日本の歴史(敗戦時)が取り上げられ、とりわけ、世界的なコロナ禍における大会の中止を決断できずにきた「日本」との類似性に触れられることが複数あったため、例えば、私たちが日本で暮らしオリンピック教育に触れる際、ナチスドイツとオリンピックの開催については必ず学ぶわけで、DOAとしては自国の歴史にどのように向き合い、教材として何か工夫がなされているのかを問いたかったのである。なぜなら、日本においても、日本ならではの歴史や社会問題に照らして教材開発をすることも可能なのではないかと考えているからであった。従来の「国際的な」オリンピック教育とあわせて「ローカルな」教育を交えることが、オリンピック・パラリンピックやスポーツに興味・関心がない一般の人たちとをつなぎ、子どもたちだけでなく大人の学び直しに向けての教材になり得るのではないかと感じているからである。

 こうした疑問や興味は、あくまでも専門をオリンピック教育に置いていない「外部」の視点であると思う。しかし、同じ「ヨーロッパ」(報告者はスペイン・カタルーニャ州)を調査地としている報告者としては、歴史と自治への意識が高く、「社会」(日本語では「地域」のニュアンスが近いのか)を重んじる人びとと(ナショナルな)「オリンピック」のつながりが、ドイツ国内でいかなるもので、どのようなローカルな文脈を用いてオリンピックの価値を普及していくのかは、今後の日本にとっても肝に思えたのである。プロウス氏からは、DOAのメンバーは国内のスポーツ連盟(NF)から来ている人が多く、スポーツクラブと個人的なつながりはあっても直接なスポーツクラブとの関係性は構築されていないとのことであった。また二点目に関しても、現在のところ、特段、オリンピック教育との関わりでは個別の内容は用意されていないとの答えであった。例えば、DOAはオリンピックデーに教材を提供しているものの、例えば、その中に1936年の出来事や国家社会主義のこと、あるいは1972年のドイツの大会におけるイスラエルの攻撃といったことは全く触れられていないそうである。現在、ドイツは2036年の大会の招致を試みているが、もしそれが実現すれば1936年のベルリン大会と2036年のベルリン大会を比較して、ドイツがいかに1936年とは違うのかということを真剣に深く考察し、1936年は何がダメだったのか、何が良くなかったのか、そしてなぜ今はそれと違うのかということを深く洞察していくことは非常に重要になってくると話されていた。おそらく、2032年のブリスベンから始めて2036年にヨーロッパに大会がくる、ドイツに来るということになれば、DOAとしてもプログラムの中で真剣に検討したいとのことであった。舛本委員長から「グローバルスタンダードな教育を展開していると理解すればいいですね」と質問が付け加えられ、氏が苦笑いしながら「Yes」と答えられた。時折、氏の回答の中には英語ではなくドイツ語が混じっていたことから、プロウス氏との個人的な交流がない中で返答しにくいであろう質問をしてしまい、かなり、氏にはご苦労を掛けてしまったと思う。氏にはタイミングを見て、個別に質問の背景と報告者の真意を伝え、日本でのオリンピック教育に生活の視点から力を尽くせるように努力したい旨、伝えようと考えている。

写真3 IOCのレガシー・フレームワーク

 さて、その空気を変えるように、舛本委員長が続けて、プロウス氏がIOCのメンバーとして参加するサステナビリティ&レガシー委員会での活動内容について質問を送ってくださった。同委員会は2014年に設立され、この東京2020大会でこのサステナビリティとレガシーが大々的に注目されてきている。プロウス氏の主な担当分野は、2003年以来、研究しているオリンピック・レガシーである。

 舛本委員長が触れたように、レガシー・キューブが有名であるが、氏は、この先、それよりもっと有名になるのはIOCのレガシー・フレームワークだという。プロウス氏はそのレガシー・フレームワークの開発に携わっている。具体的には6つのレガシーの分野があり、IOCはこの6つの普及を各大会で推進していきたいとのことであった。当日は、そのうち5つの分野が紹介された(写真3)。

 まず、ビジョンとしては、開催都市が選考されると、大会の要件ということで当該大会に対して何が提供できるか、例えば、ゲームだけでなく教育という点でレガシー提供のための付加価値などができ、大会開催後には、都市の構造とともに人びとの考え方が変わり、それらが連続して起こった結果として、願わくば、人びとの生活の質(QOL)の向上に繋がってくれればと期待を寄せているとのことであった。続いて、オリンピック教育の文脈でレガシーを捉えた場合、以下の変化を想定している。①都市開発(例:NOAが新しい学校をつくったか。新しい教室が増えたかなど)、②ポリシー・ガバナンス(例:学校にオリンピック教育に関するカリキュラムができたか、増えたか。大学やNFに価値教育が取り込まれたか、ガバナンス構造はどうなったかなど)、③人材開発(例:開催したことのよる知識や価値によりNOAに変容がもたらされたか。これらの活動により人びとのネットワーク構築に寄与したか。DOAとJOAの関係性が強まったかなど)、④知的財産(例:コロナ禍における開催のノウハウやJOAハウスを毎年開催するといったフォーマットも新たな発明、知財として見る)、⑤人びとの心情や行動(例:人種差別がより減ったか。フェアプレイ精神が行き渡ったか。オリンピックの価値のコンセプトへの理解が深まったかなど)である(ちなみに、プロウス氏は触れなかったが、スライドには⑥環境エンハンスメントと記されていた)。そして、これをなぜフレームワークと考えるかというと、それぞれの領域において構造自体を変える枠組みだと捉えているからであり、現在、それらを検討する測定ツールの開発に取り組んでいるとの説明であった。

 それを受けて、來田JOA理事から、測定ツールの開発は有効だと考えるが、文化的な差異がある中でツールが多様なものに適合するかといった大きなチャレンジをされているのではないかといった感想がもたらされた。來田理事は組織委員会の理事会メンバーに加わり、東京大会の進捗を見ている立場から、以下のような思いを共有された。その思いとは、プロウス氏が先に説明したようなIOCで開発しているものやアジェンダ2020の影響の中で持続可能性やジェンダー平等の戦略が開催都市にうまく消化されていない、理解されていないという側面があることだった。來田理事からは、招致の段階からそれらをモニタリングする仕組みを設けるなど新たな動向はないか、質問が向けられた。

 プロウス氏はそれに対し、まずレガシーの測定は現地の描写や情報といった文化的問題点を避けるために開催国で行われる必要性があることに触れ、1964年大会のレガシーに関しては、現在、筑波大学の日本人研究者とともに研究していることに言及した。その上で、フレームワークに当てはめて、実際、これはレガシーと呼べるのか、それともただの「良い話」なのかを判定していく。東京2020大会が前述したレガシー・フレームワークを使わない最後の大会になる。東京が開催都市契約をした際にはオリンピック開催のインパクトを調査する(OGI)という内容で契約をしており、2022年の北京からはオリンピックゲーム・レガシーという考え方が加わり、レガシー調査をもとに契約が行われている。これまでインパクトは大学が測定に関わり短期の影響を測定してきたが、それに替わる今後のレガシーは長期のものを表すことになる。

 IOCは2036年から新しい招致活動のシステムを導入する予定でいる。候補都市がレガシーに対するビジョンをIOCに早々にプレゼンテーションし、いかにそのレガシー・ビジョンがその都市にフィットしているかを中心に説明するようになる。その後、長い対話のプロセスに入り、例えば、開催の15年前、10年前であっても開催都市が選ばれるということが起こり得るとのことであった。これまでは、大会のために〇〇を建てなければいけないというスタンスであったが、新しい考えのもとでは「ここで、このようなことをしたい。これが開発に必要なものである」といった具合にプレゼンテーションをしてもらい、それがレガシーに対するビジョンに合致するかを見ていくことになる。そして、今後は、将来的にも、組織委員会に、大会が開催された後5年間、そのレガシーが、オリンピック大会がその国に根付いているかを観察することが求められる。 つまり、どのような変容があったのか。ベニューそのものがレガシーとして使われているのか。それはリオデジャネイロでの失敗を繰り返さないためであるという。なぜなら、リオデジャネイロの場合は全く資金が残っておらず、レガシーとして達成するための経済的な余裕がなかったからである。今後は、開催都市の招致活動の段階から独立した組織委員会を立ち上げ、大会後もレガシーが本当にきちんと提供されるかどうかが開催都市契約に盛り込まれていく流れになる。ただ、それは2032年以降のことであり、残念ながら東京大会には間に合わなかった上、IOCが考えているレガシーのコンセプトが広く世間に伝わるためには時間がかかるだろうとの見解が披露された。

4、まとめ 

 プロウス氏からは、東京は、ロンドンや先進国の多くの国同様、レガシーがきちんと活用されていくだろうと強く信じているとの言葉が掛けられた。それに対し、來田理事からはそれを願う気持ちが共有されたあと、これまではオリンピックの価値のデリバリーに関するところに集中しがちであったが、それが変化しつつあって、中・長期的な意味でオリンピックの価値が理解されて招致しようと世界が動いてくれるようになればより良いだろうと、全体に対するまとめのコメントが寄せられた。

 最後にプロウス氏へ盛大な拍手が送られるとともに、舛本委員長からは参加者への御礼の気持ちが述べられた。残念ながら緊急事態宣言下であったためその場での飲酒は叶わなかったものの、舛本委員長の音頭のもと、一同からは乾杯の声があがった。舛本委員長が手にしていたドイツビールの缶に「水を入れることはできると思います」とプロウス氏から冗談が飛び、和やかな雰囲気の中で「ドイツ・イブニング」は閉じられた。

プロウス氏は、この日、ドイツではなく、トルコで休暇中であった。報告者自身、こうした生活スタイルや日本における労働時間のありかたの変容こそが生活の質を上げるために重要な観点であり、プロウス氏が示した測定ツールでは除外されてしまう、日本の文脈におけるレガシーたり得ると痛感している。IOCや専門家のみに頼らず、私たち自身が〈わたし〉や〈われわれ〉にとってのレガシーとは何か、それをいかに周囲と共有していけるかを本気になって考え、ビジョンを示し合い、それに向けて直接的な行動に移していけるのか・・・新型コロナウィルスの世界的な蔓延下での大会を、唯一の開催地として経験した〈われわれ〉だからこそ、プロウス氏が提案されたグローバルなプロジェクトに〈生きたものさし〉をもって参画し続けていくことができるのではないだろうか。ドイツが、その歴史を背負い続けるように、〈われわれ〉にもこの多様な現実を引き受ける責任が求められている(2021年9月12日:岩瀬文責)。

(文責 岩瀬裕子:2021年9月12日)

主催:NPO日本オリンピックアカデミー(JOA)
    https://olympic-academy.jp/

   

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特別レクチャー報告

2021年8月2日(月)17:00-19:00

テーマ:2012年ロンドン大会のレガシーとしての“Get Set”
コーディネーター:本間恵子(JOA会員)
講師:Vassil Girginov(ワシル・ギルギノフ)

特別レクチャー

参加者23名(最大時)
 参加申込み者数:国内25名、海外38名)

概要:

2012年ロンドン大会の教育プログラム「Get Set(ゲットセット)」について、スポーツマネジメントやオリンピックレガシー研究で多数の著作を発表しているVassil Girginov(ワシル・ギルギノフ)先生に講義していただきました。大会招致の公約を実現するために2008年に開始したGet Setプログラムは現在も継続し、ロンドン大会以降も夏季大会・冬季大会で活用されています。オンラインを活用したGet Setについて、プログラム開始の背景から現在に至るまでの流れ、プログラムの成果と課題、評価、レガシーについてお話いただきました。質疑応答では、英国・台湾・日本の研究者から活発な質問が寄せられました。主な講義内容を以下にまとめましたので、ご参考にしていただければ幸いです。

プログラム:

  1. JOA House実行委員長の舛本直文先生の開会ご挨拶
  2. Vassil Girginov(ワシル・ギルギノフ)先生のレクチャー
  3. 質疑応答
  4. JOA House実行委員長の舛本直文先生の閉会ご挨拶

主な講義内容:

●Get Set開始の背景

  • 学校向けの教育プログラムは、1988年カルガリー大会の時に開発されたのが最初である。
  • 英国では、ロンドン2012招致の前に3回、バーミンガムやマンチェスターがオリンピック招致に失敗していた。招致成功の可能性があるのは唯一ロンドンであるとし、世界やIOCに何を貢献できるか示す必要があった。
  • ロンドン2012招致委員会会長のセバスチャン・コー氏は、大会招致にあたって若い世代にインスピレーションを与えることを2005年のIOCセッションで約束し、ロンドン開催が価値あることを訴えた。この公約を実現するものとして、2008年の北京大会直後にGet Setプログラムを開始した。

●Get Setとは

  • ロンドン2012の公式教育プログラム。学校教育を通してオリンピック・パラリンピックの価値を提供する。
  • ロンドン組織委員会(LOCOG)がオンラインプラットフォームでリソースやサポートを提供し、プログラムの具体的な計画・実施は学校主体で推進された。
  • Get Setは、①ネットワークに加入する機会を学校に提供(加入により学校は特典を得られる)、②海外の学校・チームとの交流による国際性推進(2011年9月開始)、③プログラムを補完するために民間企業やボランティア等がネットワークに参画、という3つの特長があった。
  • Get Setの目的は、全ての若者にオリンピック・パラリンピックの価値を学び実践する機会を提供すること。また、大会を学びや参画の機会として活用し、代表選手団への応援を高めること。具体的な内容は、各学校に委ねられていた。

●Get Setの内容

  • Get Setは、リソース、ネットワーク、パートナーの3つの要素から成る。プログラムを超えたオリンピック教育ムーブメントを作る初の取組だった。
  • リソース:ガイドライン等の先生向けのリソースや、生徒の年齢別に開発されたリソースを提供。
  • ネットワーク:全国的な学校ネットワークを構築し、学校間で経験を共有。ネットワークに参加すると特典が得られる。
  • パートナー:組織委員会は民間組織で8年間という限定的な組織であるため、民間や公的機関と連携してプログラムを支援。
  • オリンピックの価値を推進するための戦略を立て、オンラインプラットフォームを活用し、パートナーと一緒に推進するという構造。英国政府のほか、中央競技団体(NGB)や企業からも支援があった。個人・団体もコミュニティを作った。
  • Get Setのサイトでは数多くのリソースが提供されている。対象年齢に合わせたリソースや教科に合わせたリソースもある。リソースの使い方や指導方法も提供している。
Get Set ウェブサイト

●Get Setの評価

  • 評価はこれまでに3回行われた(2011年、2013年、2016年)。直近の評価はリオ大会後の2016年に実施。東京大会後も評価を行う予定。
  • 2011年の評価はマーケティングリサーチ会社のニールセンが実施した。地域別に見た普及率データでは、ロンドンから遠いほど普及率が低い(登録機関数が少ない)ことが明らかになった。興味・関心の度合いや参加率も同様の結果だった。これらの評価は興味深い内容ではあったが、必ずしも包括的なものではなかった。
  • Get Setへの公的投資は、2008年から安定的に行われ、最終的には250万ポンドに上った。民間からの投資は明らかになっていないが、公的投資に比べて少額だった。英国の金メダルコスト(公的資金の投資額)は、リオ大会で1,000万ポンドと言われているので、Get Setへの投資額の5倍に相当する。

●Get Setのインパクト

  • 英国のイングランド地域では26,000以上の教育機関がGet Setに参画。全国では85%の教育機関が参画した。
  • 50%以上の先生がGet Setによって生徒の行動や成績に良いインパクトがあったと回答。生徒の自信や向上心につながったとしている。
  • 約半数の学校はインパクトがあったと回答した一方、残りの半数はそれほどインパクトはなかったと回答。
  • 成績や行動は目に見える形(tangible)で測ることができるが、目に見えない・形のないもの(intangible)である学習意欲やエンゲージメント、自信、向上心は感覚的・主観的であり、測るのが難しい。

●Get Setの課題

  • カリキュラムに組み込むか課外活動とするか:カリキュラムに組み込むと社会的ムーブメントが学校内に限定されたり、校長の熱意が影響するという問題がある。一方、課外活動の場合は、地域パートナーに参加してもらうのが難しいなど実施上の課題があった。
  • リソースの欠如:リソースが十分ありコーディネーターを配置できた学校もあったが、多くの学校ではリソースが足りず追加業務となった。また、Get Setパートナーが開発したリソースの中には、オリンピックの価値とは無関係なものもあった。例えば、BT(British Telecom、英国最大の通信会社)が開発したビジネスチャレンジはビジネスプランを立案するもので、スポーツやオリンピズムやオリンピックの価値とは無関係だった。学校のキャパシティビルディングに欠けていたことは、このプログラムの明らかな弱点といえる。
  • インセンティブ:Get Setネットワークに登録した学校は、無料の観戦チケットを受け取ることができた。2011年調査では、無料チケットをもらえるからGet Setに参加したという学校が57%あった。一般の人は抽選に当たらないと観戦できなかったため、無料チケットのインセンティブは大きかったが、オリンピックの価値教育との交換という点で課題。
  • ネットワーク:他国の文化や選手等について学ぶネットワークを構築したが、海外の学校との連携に成功したのは、Get Setネットワークに参加した26,000校以上のうち200校だけで、全体の1%にとどまった。クーベルタン男爵は国際性や多文化主義を推進したが、Get Setにおける国際性推進は限定的だった。
  • エンゲージメント(参画):Get Setは大会への参画を高めることはできた。しかし、参画は学びのために必要な条件ではあっても、学びそのものではない。

●Get Setのレガシー

  • Get Setは10年経った現在も継続し、積極的に活動している。ロンドン2012以降、夏季大会でも冬季大会でも活用されてきた。
  • 2016年の調査では、先生たちの多くがプログラムを高評価。生徒のやる気や学習意欲、成績、チームワークなどにつながったと回答。生徒自身も、新たなスキルを身につけた、達成意欲が高まった、障がい者への理解が深まったと多くが回答した。
  • 東京2020開催後もプログラムの評価を行っていく予定。

【質疑応答】

Q:オリンピック教育の定義とは何か。スポーツを通じた教育なのか。Get Setと身体活動・スポーツとの関係はどのようなものなのか。

A:Get Setにはスポーツ関連の活動や、スポーツ・身体活動を実施するものもある。例えば、身体を動かすチャレンジや目標を立てるものもある。Get Setに関する学術的評価では、半分以上が身体活動に関するものであることが明らかになっている。

Q:IOCのOVEP(Olympic Values Education Programme)との関係は?

A:自分が知る限り、Get SetはOVEPが公式発表される前に開始したプログラムであり、直接的な関係はない。内容的には近いものもある。OVEPのほうが洗練され包括的である。

Q:オリンピック教育を進めていくために、Get Setのキャパシティビルディングは今後改善していくか。

A:リソースが限られているため難しい。大会までは教育省が投資をすることになっていたが、今はそのような投資はない。殆どの校長先生にとって、オリンピック教育プログラムは優先順位が低い。過去10年でプログラムは発展し、リソースも提供してきたが、プログラムが日常的に学校で行われるかどうかは校長先生や学校の熱意によって異なる。Get Setは自発的な任意のプログラムである。プログラムに参加する人が解釈して実行する。どんなに素晴らしいプログラムでも実施されなければ成功しない。

Q:2012年の前にあったBritish Olympic Academyは今も存在しているのか。

A:現在は存在していない。British Olympic Association(NOC)はアカデミーに投資できないと判断した。

Q:Get Setは、ロンドン2012パラの成功にどう貢献したか?チャンネル4によるプロモーションとの関係は?

A:パラ大会の成功として、障がい者への理解が深まったというエビデンスがある。障がい者への見方を変えた点で、チャンネル4のプロモーションによるインパクトが大きかった。包括的なアプローチで継続的にドキュメンタリーやニュースストーリーで取り上げ、テレビ業界で最も有名な賞ももらった。しかし、大会終了1年後にチャンネル4が障がい者に取材したところ、大会前から状況は改善していないことがわかった。

Q:Get Setの教育内容に平和希求といったコンテンツは含まれていたか。

A:サイトを見ると、現在の主な焦点はアクティブなライフスタイルや身体活動の推進である。平和は言及されているが、メインの焦点にはなっていない。選手応援や身体活動、友人との活動など様々な活動がある。

Q:民間の調査機関が行った2011年の評価は包括的ではなかったとのこと。今後、評価主体はどのような組織が担うべきか。

A:調査機関の評価・結果・努力を過小評価してはいけないが、採用した手法は包括的ではなかったと考えている。想定していた結果が得られるような形式になっていたことが問題。独立した立場としているが、現実的にはスポンサーの1社であり、利益相反が起きる可能性があった。理想的には、研究者を含む独立機関が評価を行うべきである。

本イベントにご参加された皆様に心より感謝申し上げます。
また、このような機会をいただき、ありがとうございました。

【総括&編集後記】

 英国ロンドン2012招致をきっかけに始まった教育プログラム「Get Set」は、青少年の教育・意識・行動に一定の効果があったとする評価がある一方で課題もあった。例えば、時限的な民間組織である組織委員会が教育リソースを提供し、Get Setに参画した学校の自主性にプログラム実施が委ねられていたことから、後継組織の検討や学校内の実施体制等のガバナンスの問題、事業資金・デリバリー人材確保等のリソースの問題、客観的な評価の在り方等があげられた。Get Set開始当初の2008年は、IOCが国際的なオリンピックの価値教育OVEPを一部の地域で試験的に展開していた時期であり、ロンドン2012組織委員会は独自の教育プログラムを展開していた。しかし、現在Get Setが提供している取組を見ると、IOCのOVEPページに記載されているような国際課題解決に向けた活動もあり、国内外の動向を踏まえてプログラムが変化してきたことがうかがえる。

 日本でも東京2020の招致によってオリンピック・パラリンピック教育が加速した。IOCとの開催都市契約では、オリンピアード期間中にオリンピック教育を全国で実施することが求められている。東京大会は第32回近代オリンピアードに含まれ、その期間は2023年12月末までの4年間である。新型コロナウイルスの感染拡大対策に世界各国が取り組む状況下、国内でも中止や再延期を求める声が高まる中での異例の開催となった東京2020。開催意義や大会運営の在り方、オリンピック・パラリンピックの価値ひいてはスポーツの価値も問われた。選手の活躍やテレビ観戦での感動を一過性にしないためにも、こうした問いを共に考え続けていくことが重要ではないか。オリンピアードをつないだ開催国としての責任は、大会後も続く。

(文責 本間恵子)

主催:NPO日本オリンピックアカデミー(JOA)
    https://olympic-academy.jp/

   

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シンガポール・イブニング報告

2021年7月29日(木)17:00-19:00

テーマ:Our Olympic Journey @Bendemeer Primary
コーディネーター:唐澤あゆみ+大津克哉 (JOA会員)
講師:Lim Kim Gek(リン キム ゲク校長)+Mrs. Teo-Koh Sock Miang(SOA会長)+Loo Chuan Long Richmond先生+Sulasteri Binte Mohammed Sidek先生

シンガポールイブニング

参加者34名(最大時)
 参加申込み者数:国内24名、海外41名)

概要:

Virtual JOA Houseの企画の一環として、シンガポール・イブニングが開催されました。日本オリンピック・アカデミー(以下、JOA)ならびにシンガポールオリンピック・アカデミー(以下、SOA)に所属する参加者を中心に、日本とシンガポールから約40名がオンライン上に集いました。SOAよりシンガポールのオリンピック教育について学び、日本とシンガポール両国間で意見交換を行いました。ここではプログラムごとに概要をまとめ、シンガポール・イブニングの報告とします。

プログラム:

  • Opening Remarks by Mrs. Teo-Koh Sock Miang, Chairperson of Singapore National Paralympic Council, and SOA Principal(シンガポールパラリンピック委員会会長・SOA会長)
  • Presentation 1: Olympic Movement in Singapore presented by Mrs. Tam-Lim Kim Gek, SOA Fellow, and Principal of Bendmeer Primary School(SOAフェロー・ベンデミア小学校校長)
  • Presentation 2: Our Olympic Journey @Bendemeer Primary School presented by Ms. Sulasteri Binte Mohammad Sidek and Mr. Loo Chuan Long Richmond, PE teacher at Bendemeer Primary School(ベンデミア小学校体育科教員)
  • Q & A

テーマ:

Olympic Movement in Singapore: The activities organised by SOA and or Schools in Singapore post 2010 (YOG2010)

シンガポールのオリンピック・ムーブメント:第1回ユースオリンピック競技大会(2010/シンガポール)後のSOAならびに/またはシンガポールの学校による(オリンピック教育推進のための)活動報告

1. Opening Remarks

 シンガポール・イブニングは、シンガポールパラリンピック委員会会長でありSOA会長でもあるSock先生のご挨拶から始まりました。「コロナ禍に見舞われた過去18ヶ月は、誰もが経験したことのない大変な期間でありましたが、オンライン上に集いオリンピック教育について共有できることを嬉しく思います。今ここにいる我々が、オリンピックのモットーである『Faster(より速く)、Higher(より高く)、Stronger(より強く)、Together(ともに)』を広く推進していくことに情熱を注いでいきましょう」と参加者を鼓舞しました。

2. Presentation 1: Olympic Movement in Singapore(シンガポールのオリンピック・ムーブメント) 

SOAフェローでベンデミア小学校校長でもあるKim先生より、シンガポールにおけるオリンピック教育ならびにオリンピック価値教育(The Olympic Values Education Programme:以下、OVEP)がどのように推進されてきたのか情報提供がありました。

 シンガポールでは、SOAを中心に、第1回ユースオリンピック競技大会(2010/シンガポール)(以下、YOG2010)後もオリンピック教育としてOVEPを推進してきたそうです。JOAから舛本先生・大津先生が講師として招聘された「スポーツと環境シンポジウム」や、私も参加したことのあるSOA主催の「Annual International Academic Session」などは、オリンピック教育に携わる教育者を育成するために開催されました。また、東京2020大会ついても触れられ、2020年東京オリンピックにはシンガポール史上過去最多の12競技に23名の選手が参加すること、パラリンピック前にはシンガポール国立競技場でシンガポール国旗の贈呈式が行われたことが報告されました。

 Kim先生のプレゼンテーションの結びには、「スポーツを志す人びとを勇気づけられるアスリートの輩出、そしてアスリートの足跡をたどる人々が増えていくことが大切」と訴え、シンガポールの未来に期待を寄せていました。

3. Presentation 2: Our Olympic Journey @Bedemeer Primary School(私たちのオリンピックへの旅路@ベンデミア小学校)

 Kim先生の報告に続き、ベンデミア小学校の体育科教員であるSulasteri先生ならびにRichmond先生より、ベンデミア小学校での取り組みやオリンピック教育推進のための教育者向け研修会について報告がありました。非常に種類に富んだプログラムが紹介されました。表に今回紹介された各プログラムの概要をまとめましたので、表1をご参照ください。Sulasteri先生もRichmond先生も、「オリンピズムを児童に教えることによって、自らもオリンピックの価値に気づくこと、学びを深められることが重要」と力強く語っていました。

※MICRON World Para Bowling Tour Series2019
https://www.myactivesg.com/read/2019/7/micron-singapore-world-para-bowling-tour-series-sees-huge-growth

4. Q & A

 おもに「YOG2010のレガシー」について活発な議論が展開されました。Richmond先生は、「シンガポールのような小さな国でもYOGのような規模の国際大会を開催することが可能なのだという自信が持てたこと、さらに2024年パリオリンピック・パラリンピックにボランティアとして参加したいと思っている教員が多くいることがYOG2010のレガシーである」と語りました。また、SOAの参加者からは、「YOGを通して少なくとも誰もがオリンピック・パラリンピックに参加できるのだという種(=夢)が植えられた。その種(=夢)を持てたことがレガシーではないか」という意見が出ました。

所感:

 ベンデミア小学校では、スポーツ絡みのイベントを効率よく利用してオリンピック教育を推進していることが非常に印象的でした。また、オリンピック教育をベンデミア小学校で展開していくのにあたり、Kim校長先生から良い意味でのトップダウン方式である印象を受けましたが、教育者がオリンピック教育について学べる研修がシンガポール国内に充実していることが、ベンデミア小学校でのオリンピック教育を支えていると感じました。

 私個人としては、2018年のSOA Annual International Academic Sessionに参加した際に一緒のグループだったRichmond先生とオンライン上で再会できたことがうれしかったです。彼のプレゼンテーションを聞いて、ベンデミア小学校で中心となってオリンピック教育を展開する彼の教師としての顔を見ることができ、セッションで出会ったときとは違うRichmond先生の良さを見つけることができました。私もSOAを通じて出会った仲間を大切にし、現在のJOAとSOAとの強固なネットワークを維持してくあるいはさらに発展させていく一翼を担えるよう、今後も頑張っていきたいと思います。

参考:第1回ユースオリンピック競技大会(2010/シンガポール)の概要について(JOCホームページ:https://www.joc.or.jp/games/youth_olympic/2010/

文責:唐澤あゆみ
協力:舛本直文・大津克哉

主催:NPO日本オリンピックアカデミー(JOA)
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台湾・イブニング

2021年7月26日(月)17:00-19:00

テーマ:台湾におけるオリンピック・ムーブメント
     (台湾オリンピック・アカデミーの活動やオリンピック教育の紹介)
コーディネーター:舛本直文+荒牧亜衣(JOA会員)
講師:Leo Hsu(許 立宏)博士+Felix Chan氏&Kathy Ko先生

台湾イブニング

参加者33名(最大時)
 参加申込み者数:国内24名、海外33名)

概要:台湾のオリンピック研究の第1人者による台湾のオリンピック・ムーブメントについての紹介。後半は台湾の高校教員2名から、彼らが実践しているオリンピック教育の様子を紹介して頂きました。

3名の登壇者が台湾におけるオリンピック・ムーブメントに関する報告を行いました。報告のタイトルは、下記の通りです。

  1. 台湾におけるオリンピック教育ムーブメント Dr. Li-Hong (Leo) Hsu, National Taiwan University of Sport(NTUS)
  2. オリンピックとの出会い:オリンピックはどのように私の人生を変えたのか Felix Chan, Taiwan International Sport Volunteer Association
  3. 台湾におけるオリンピック教育の実践 Chia-Ling (Kathy) Ko, National Taitung Junior College

Dr. Li-Hong (Leo) Hsu先生からは、台湾オリンピック・アカデミー(CTOA)の活動報告、高等学校における教育実践に加え、2011年から教育省と台湾オリンピック委員会の支援を受けて実施されてきたISATCについて、大学でのオリンピック教育実践やオリンピック教育センターの活動について紹介がありました。

 International Sports Affairs Training Course)

CTOAは、1978年に設置されました。同年にセッションを開始し、これまで43回開催され、1000人以上が参加しています。IOAセッションにも参加者を毎年派遣しており、こうした業績に対してCTOAは、2019年にIOAのアテナ賞を受賞しました。CTOAでは、“Excellence, Friendship, Respect”のオリンピズムの中心的価値を重視するとともに、IOAのテーマに台湾ならでは文脈で各セッションにローカルなテーマを付け加えながら活動を展開しています。これまで開催されたセッションの報告書はオンラインで閲覧できるようになっているそうです。
現在、CTOAでは、若い世代を対象とした活動に力を入れており、高校生に対して、エリートアスリートから体験談を聞き、その経験を共有できるようなプログラムを提供しています。また、ISATCは、国際的なスポーツ組織や国内スポーツ団体で活躍できる人材育成を目的として実施されているプログラムです。通常時は、4〜5日間かけてセミナープログラムを実施しています。TOCOGのメンバーも招聘してレクチャーをしたこともあるそうです。
Leo先生は、英国で学位を取得された後、帰国した2003年頃から、台湾国内の大学にてオリンピック教育の実践に携わってこられました。大学にオリンピック教育に関連するコースを新しく設置することは決して簡単なことではなかったそうですが、まずはテキストを準備することから着手しました。オリンピック・ムーブメントのビジョンやミッションをあらためて問い直しながら、5つの教育テーマ(peace, ethics, multiculturalism, aesthetic, internationalism)を設定し、各テーマを3回行い、それに加えて導入のための授業を3回行う18週間のコースを構築したそうです。実際の授業では、集団形成からスタートし、専門家の講演を聴講するだけでなく、ディベートや映画鑑賞も行っています。
現在のLeo先生の勤務先であるNTUSでは、オリンピック教育に関する展示を2020年から開始しています。このプロジェクトには、学生自身が参加することによって学びを深めています。200名以上の学生が37のグループに分かれて、展示に向けて活動したそうです。400畳以上の空間を3つのゾーンで分けて、各グループが考案した展示を行いました。NTUSには今年、開学60周年を記念して、オリンピック教育センターが設置されたことも報告されました。Leo先生は、Glocalizationをキーワードに、ダイナミックなアプローチ、クリティカルシンキング、国際的な視点、平和教育のプログラムの必要性を提唱され、今後も継続的に異文化を超えて、学び続ける機会を設けることの重要性にも言及されました。

Felix Chan先生は、自身とオリンピックとの関わりについて紹介しながら、現在取り組まれているスポーツボランティアに関する活動についてご報告いただきました。これまで、Felix Chan先生は、2004年アテネ大会、2016年リオデジャネイロ大会にボランティアとして参加しました。自身の経験を生かし、台湾の各都市にボランティアチームを組織し、将来的にオリンピックをはじめとする国際的なスポーツイベントにボランティアに参加することを目指しているそうです。

Kathy Ko先生からは、台湾の体育の教科書に掲載されているオリンピック・ムーブメントに関する内容について報告がありました。オリンピック競技大会やオリンピックシンボルの解説のほか、古代ギリシアにおけるスポーツについても紹介されており、日本と同様にポスターやロゴをデザインしたり、古代オリンピックの種目を体験したりする活動も教科書で取り上げられていました。また、パラリンピックの競技種目体験についても最近取り組んでいるとの報告がありました。

3名の報告の後、参加者との意見交換を行いました。台湾でオリンピック・パラリンピック教育を展開する際の課題や教員の反応について、日本の現状を踏まえた質問がありました。日本と同様に、教育内容のみを紹介するのでなく、教育理念を共有していくことが重要だとコメントがありました。また、レオ先生が実施されている大学でのオリンピック教育について、5つのテーマを設定した背景についても確認がありました。レオ先生から、東アジアの現状や多様な文化が存在する台湾の事情を考慮して設定したと説明がありました。また、CTOAのセッションに関して、若者やメディア、アスリートなど対象に応じてテーマは設定をどのように行っているのかについても意見交換がなされました。
本セッションの最後は、台湾ビールならずもジャスミンティで乾杯して締めくくりました。

(文責 荒牧亜衣)

主催:NPO日本オリンピックアカデミー(JOA)
    https://olympic-academy.jp/

   

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オープニング記念JOAフォーラム

7月24日(土)17:00-19:00
「JOAハウス」opening記念「JOAフォーラム」

テーマ:「東京2020大会に期待すること/期待すべきこと」

コーディネーター:飯塚俊哉(JOA会員)

概要:JOA HOUSEの開設を記念し、「東京2020大会」の競技の初日に、このコロナ禍の東京大会に「期待すること」および「期待すべきこと」について自由に意見を述べ合いましょう! たとえば、共生社会、SDGs、ジェンダー平等、平和運動などなど。何人かの方に基礎情報の提供も願いする予定です。

<タイムスケジュール>

PartⅠ:17:00~18:00
オープニング 「バーチャルJOAハウス」開館挨拶

望月敏夫JOA会長(JOAハウス館長)

「バーチャルJOAハウス」の開始に多くの方が努力されて記念すべき事業となった。
競技の始まる第一日目で、開催出来たこと。大会をよく観察して、パリ、LA、ブリスベンへつなげる。組織委員会はなくなるが、JOAは残るので、次に繋げるのが大切な役割。

●落合恒武蔵野大学常任理事(JOAハウス実行委員会副委員長) 

有明キャンパスが出来たら、オリンピック開催が決まり、第二聖火台もある場所に。今回の機会に協力出来るのは意義があることである。

●舛本直文JOA副会長(JOAハウス実行委員会委員長)

オンラインで世界とは繋がり易くなる利点もある。「バーチャルJOAハウス」は多様な意見も活発に出せる場としたい。オリンピック・パラリンピック教育についても話し合いたい。

1.ジェンダー、平和運動、SDGsなどの観点からのJOA会員4名による
  情報提供、意見表明

●宮嶋泰子氏(元テレビ朝日、一般社団法人カルティベータ代表)

  • コロナ禍での大会開催に大会開催に反対する立場で、押し切られるという状況。コロナと戦う戦時中に強行される五輪となった。
  • テレビ朝日で、1980年のモスクワ大会から平昌まで19回のオリンピックの現地取材に携わってきた中で、印象に残るのが1994のリレハンメル五輪。オリンピック休戦が呼びかけられ、サラエボの内戦への黙とうもあった。開会式の演出も強烈な平和へのメッセージだった。東ドイツのカタリーナ・ビット選手の反戦歌でのサラエボへの心を込めた演技、オランダのヨハン・オラフ・コスは金メダルの報奨金を寄付し、それと同時にノルウェー国中でサラエボへの支援が高まった。これがオリンピックの本当の姿、真髄。昨日の東京大会の開会式は、世界の人に訴えるテーマが分からず残念に感じた。
  • 東京大会に期待すること、期待すべきこと、としてジェンダーと難民の二つを挙げたい。
  • ジェンダーでは、女性の競技参加者が増えた。今回の旗手、男女が手を取り合って行い、慣れぬ姿もほほえましいものだった。LGBTQ表明したアスリートが160名を超え、大坂なおみは意見を表明出来る女性の象徴として聖火の最終点火者になった。これからは女性の参加者の数ではなく内容が問題にされる段階に入った。女性の競技ウェアについての問題、LGBTQ、多様性に対するルールでは、キャスター・セメンヤ選手の件も含み、トランスジェンダーの基準は単にホルモンの数値だけでよいのかという点もある。
  • 難民にとってのスポーツに、かつてから強い関心。15年前から難民キャンプも四度取材。スポーツの難民に与える力可能性とはどういうものかと、数回の番組を作ってきた。アフガニスタンでは、スポーツウェアを着て前へ出るだけでも罵詈雑言を浴びた女性が、フランスに勉強に行って、自転車の練習で皆に頑張れと声援を受け、難民選手団の一員として今回出場。できなかった事が、国が変わるだけで出来ていく。自分の可能性も広がる。また前回大会から追っているポール・ミサンガ選手は、かつてのザイール、現コンゴ民主共和国で、段ボールで寝泊まりする子供時代を送り、夢もないし学校にも通えない環境の中で、井上康生選手の柔道を見て、自分もこれがやりたいと、出来る環境を探して、柔道を始め、コンゴ民主共和国の代表となり、今大会は、難民選手団として出場。彼は、柔道を通して、学校で学べなかった分、全て柔道で学ぶと語った。
  • このように人の人生を変えていくスポーツを見つめたいと思う。

佐藤次郎氏(元東京新聞編集委員)

  • 長く新聞記者、スポーツライターとして、一貫して熱心なスポーツファン、熱烈なオリンピックファンとしての記事を書いてきた。今回何よりショックだったのは、長い歴史の中で初めて愛されないオリンピック、歓迎されないオリンピックが生み出され、何の祝福も得られないまま無観客で開催となったこと。
  • 今回のパンデミックのただ中で、世界最大の祭典が開かれるには、どうしても無理がある。そこに十分な説明や、国民、都民への語り掛けの無い中で無理やり強硬開催に突き進めば強い反発があるのは当たり前。
  • まずトップにオリンピックどうあるべきとの理念、理想がなかった。そして中止、延期もありうる前例のない状況に対応できなかった。オリンピック、IOCを特別視、絶対視し過ぎた。この三つ原因によって、手を打てないまま、ずるずると開催へ向かって日を過ごしてしまったのが今大会の特徴。・この無理な中でも開けば、これだけのいい事がある、こういう考えがあるから開きたい、みんな、だから頑張って開こうよ、という説明すらなかった。これでは、不信感が強まるばかり。
  • 日本にとって、オリンピックそのものにとって、一番妥当な選択肢は、ある種の再延期だったと思うし、それはある時点では十分に可能で、交渉可能だったと思うが、どこまで交渉したかは別にしても、成果の生まないまま手をこまねき、歓迎されざるオリンピックが何の祝福も得られないまま、無観客で開催となった。
  • これはもう取り返しはつかない事。もっと先の事を考えないといけない、これはオリンピックそのものの再出発、どうあるべきかの再検討へのきっかけにしないといけない。これからのオリンピックはどうするのか、具体的に示して、それをまとまった形で日本、世界に示すことが絶対に必要。・「オリンピック再建計画」は、今回の開催当事者には任せられない。本当にオリンピックが好きだ、オリンッピクの価値について、理念を持っているという人が集まってやれればいい。この枠組みは、簡単ではないが、自分もこの状況をみて考えないといけないと思う様になった。同じ考えの方とは、共に具体的な議論をしていきたい。
  • 東京大会に何を期待するかというテーマでいうと、日本で人気のあるメジャースポーツ、人気スポーツはあまり見ないで、世界のマイナースポーツを徹底的に観ようと、ホッケー、アーチェリーの団体の海外同士の試合をみている。多様性をいうなら、まず競技の面から多様性を観たいという考え。

●野上玲子氏(日本女子大学)

  • オリンピックは、平和の祭典である。そして「オリンピズム」という国際平和思想が開催の根幹にある。主な平和運動として、オリンピック休戦(7月16日~休戦期間)、聖火リレー(Hope Light Our Way/希望の道をつなごう)、開・閉会式による「象徴的放鳩」、「Peace Orizuru」という紛争なき世界の実現を目指す活動、「エケケイリア」(聖なる休戦)、「難民選手団」は11か国29名で結成され、ギリシャに続き2番目に入場行進、選手村での「休戦の壁画」、などが実施された。また、IOCと国連の連携活動としてのSDGs「Be  better、together/より良い未来へ、ともに進もう」も謳われている。

→以上のような平和運動が実施されたが、そもそも周知されていたのか。

<オリンピックの平和運動への懸念事項>

  • 安心安全な大会とは程遠い状況。
  • 開会式の平和運動は単なるパフォーマンスなのではないか。・難民選手団は、IOCの平和運動のパフォーマンスに仕立てあげられていないか。
  • 平和の祭典が「単なるコロナ禍の祭典」になるのではないか。
  • 招致活動から現在まで、「とにかく開催する」という独裁政治のような対応が連続して繰り返されてきた。このことは、民主主義の根幹を揺るがす、日本社会の病理構造も実は含まれているのではないか。平和への問い直しがここでさらに必要になってくる。
  • オリンピックのような国家や人種が多く関わる国際的な大会においては、民主主義、平和、人権に重きを置く必要があるが、今大会はそれらを見直していかなければならない危惧すべき状況が続いている。
  • 東京2020大会がどのような取り組みによって平和な世界の構築に寄与することができるのかと考えた時に、一つ目はオリンピックの理念が再確認される大会にしなければならない。二つ目は、世界の「声」(意見)を聞き、対話や議論の機会を設け、世界と「連帯」しながらオリンピックのあり方を問い続けなければならない。
  • 大会後は、オリンピックの意義や価値を再検証し、パリへ繋ぐ日本の役割としても、今大会における世界の「声」を聞いて議論の機会を設けなければならないと考えている。

●建石真公子氏(法政大学)

法政大学で憲法を教え、JOAでは監事、国際ピエール・ド・クーベルタン委員会の会員、クーベルタンの国際協調、若者のスポーツを通しての国際的な繋がり、愛国主義との橋渡しという考え方に共鳴し、クーベルタンについて研究している。

「JOAハウスは何を目指すのか」

開会式が終わり・・・心穏やかにオリンピズムの実践だとはうけとめにくい開会式。

  1. 復興五輪のため何がなされたのか
  2. コロナ禍での開催の意義への疑問
  3. 招致運動時点からの不正の疑い
  4. 関係予算の使いみちを明らかにしにくい決算書類
    組織委員会は決算書をウェブで公開しているが、項目が大くくりでどこにお金が渡ったのかは個人情報として明らかにしにくく検証しづらい
  5. 一部の企業に利益がもたらされると疑われる報道
  6. 招致決定後から続く「関係者」の違法や人権侵害行動、過去にジェノサイドをもたらした人種差別を揶揄される言動を人が開会式のスタッフ複雑な思いで開会式を観ることになった。

この中で、JOAハウスは何を目指すのか、JOAハウスを通してオリンピズムで何が出来るかを、JOAが傘下に入るIOAを通してみていきたい。IOA(国際オリンピックアカデミー)は、クーベルタンがオリンピック教育を目的としたセンターの設立の必要性を説いていたことに基づき以下の役割で設立された。

  1. オリンピズムの研究、哲学、原則そして進歩し続ける現代社会においてオリンピズムの理念を実現し、応用するための手段や方法を研究する機関が必要。
  2. 若い人たちにオリンピックの原理や理想を教える機関。
  3. クーベルタンが表明したオリンピックの理想と目的から逸脱することなく、オリンピック運動を推進するためのスタッフを教育するセンター
  • IOAは、1961年に最初のセッションを開始。2001年、IOAはギリシャ政府とIOCの財政支援を受けて運営上の自治権を持つ民間の法人になり、よりIOCから独立して活動できるようになった。
  • IOAの理念や活動(オリンピズム)を各国に広げるNOAの設立が、サマランチ会長の下で推進。
     →1978年 JOAの設立
     →現在のJOAの中長期目的:「オリンピズムの普及と浸透」
  • 今回のオリパラを通して、オリパラ後もJOAは何が出来るのか。

課題1:オリンピック招致と民主主義

  • 東京は、オリンピックを招致することに関する国民や自治体住民の意思を問えなかったのか
     →「住民投票」により、招致を断念した都市
       ドイツ:ハンブルグ、ミュンヘン
       スイス:ダボス、シオン
       カナダ:カルガリーポーランド:クラクフ
     →東京も招致決定後も時間的にはその機会は作れたのに、
      都知事が市民自治を軽視?東京都も近辺4県も住民も
      住民投票を要求せず。民主的な実践の成熟がなかった
      のが今後の課題
     →今後の招致活動に活かせるか…
      大阪万博や2030年冬季五輪(札幌)は今回の課題を
      そこに活かせるか。

課題2:人権―国際的な人権保障の適用を

  • クーベルタンが、19世紀末に再生しようとした「近代オリンピック」
    →国際主義V.S.国家主義という問題を合わせて提起することになった
  • オリンピックゲームを国際的に広げる
    ⇒各国のスポーツ連盟を愛国主義に燃やすことにも繋がる
  • それに対してクーベルタンは、「オリンピック国際主義」という言葉を「世界の人々の国際協調や平和な共存という理念の推進」の象徴として用いた。
    →2021年の今日、国際憲章には、「平和と人権」が車の両輪とされ「すべての人に共通の人権を」、という考え方により、国際人権保障制度が設立されている。日本では、国際人権保障制度は適用が少ないという批判が多く、特に難民条約の遵守には国際的に批判。オリパラという国際的なスポーツ競技を開催するなら、国際的な人権保障制度も国際的な人々が集まることを踏まえもっと適用するべきだと考える。
  • イギリス、ロシア、ブラジル、韓国―人権とオリパラに関する共同声明(2012年8月29日) 
    この4つの国は、オリンピックの開催国。この共同声明は、冒頭で1948年の国連の世界人権宣言の採択、世界人権宣言が、自由と正義平和の基盤として人類の全てのメンバーに対して固有の尊厳と平等で不可譲の権利を承認した内容であること、また1948年は、ロンドンのオリンピックの開催とパラリンピックを開始した年であると始められ、ロンドン、ソチ、リオ、平昌の4大会は、世界中の何十億の観客に対して世界人権宣言への認識を組織的に促進し、どの様にオリンピック憲章の原則が世界人権宣言と関連し、社会のあらゆる側面に対して同宣言を伝える事ができるかを示す貴重な機会になるとし、具体的な少女や女性のエンパワーメントや差別の禁止等をあげている。
    ※声明は、スポーツとジェンダー学会に翻訳して掲載
  • 日本も人権宣言採択すべきかとの問いかけに、パリと共に宣言したらと提案したが、今回動きなく残念
  • コロナ禍・多様性「国際的な人権保障」の遵守がオリンピック国際主義には必要
    →JOAハウスの役割・・・民主主義と人権の促進=オリンピズム
  • 今回の大会がそうした人権と平和の促進を目的としたオリンピック国際主義を広げる大会になるように東京大会に期待している。

2.ゲスト登壇者(実践者のみなさん)

●野口亜弥氏(順天堂大学スポーツ健康科学部助教/一般社団法人S.C.P. Japan共同代表)

  • スポーツとジェンダー、国内の動きだけでなく、スポーツ庁国際課と一緒に行っている国際協力活動についてお話ししたい。
  • サッカー選手として、日本、アメリカ、スウェーデンでプロサッカー選手、ザンビアのスポーツを通した女子教育を行うNGO、その後スポーツ庁国際課から現職の順天堂大学スポーツ健康学部助教、国際基督教大学博士課程にも在籍、一般社団法S.C.P. Japanの共同代表といろいろやらせて頂いている。
  • 今回は、スポーツにおけるジェンダー平等を促進するための日ASEANワークショップ、インドネシアにあるASEAN事務局とスポーツ庁が共同主催を行い、UN Women日本事務所とASEAN事務所が協力をし、勤務先である順天堂大学女性スポーツ研究センターが実施団体としてオンラインのワークショップを開催しようとしている。今回の背景とスポーツを通したジェンダー平等についてご紹介していきたい。
  • 日ASEANのスポーツ協力は、2010年にASEAN事務局の中にスポーツ大臣が集まる政策対話枠組みが出来、2016年から5か年計画(ASESNスポーツ作業計画(1.スポーツ活動の認知向上、2.ASEAN共同体意識の強化、3.健康的な生活とレジリエンスの強化、4.競技力向上)が動いている。
  • 2013年に東京大会の招致が確定してから、日本の当時の文科大臣がASEANに働きかけをして、日本とASEANのスポーツ協力を政策的に作ってきた。2017年に初めて日本とASEANのスポーツ大臣会合が開かれ、女性スポーツ、障がい者スポーツ、アンチドーピングと体育指導とコーチの育成というところで日本が積極的にASEANと協力。自身の専門がジェンダーだったこともあり女性スポーツの促進をやらせて頂いている。このワークショップ自体もその政策枠組み、政策対話で10か国と日本が合意したことを実際にオリパラ期間中に実施するというスキームでやっている。
  • 実際には、オリとパラの間に4日間のワークショップを行う。中央政府と地方政府とNOCの女性スポーツの政策に関わるリーダーが集まって各国の女性とスポーツに関するアクションプランを作っていく事、各国から若い女性リーダーを選出しリーダーシップスキルをスポーツ通じての教育する事、という2つの目的でやっている。
  • 日程は、2021年8月10日から8月13日、完全オンラインで実施。57名、政策関係が各国3名で30名、若い女性リーダーが各国から2名ずつ選出、ユネスコのスポーツSDGsのタスクフォース5名選抜で行う。こういうスポーツ国際協力、スポーツを通じてジェンダー平等にアプローチをしようという開発と平和のためのスポーツという大きな流れが2000年くらいからおきている。「Sports for Development and Peace :SDP」といい、自分の専門もそこになるが、2000年以降、開発課題に対して、スポーツ、身体活動、運動が、どういう風に貢献できるのかを議論している。国連が主に中心となってやっているが、IOC、FIFAも積極的に議論していて、最近は国連の動きが活発でなくなってきているが、もともとはミレニアム開発目標(MDGs)に対するスポーツの役割に対する議論から始まり、今は持続可能な開発目標(SDGs)達成に対するスポーツの役割が議論されている。
  • 日本も2013年招致を確定し、2014年からスポーツ国際貢献事業としてSports for Tomorrow が始まり、その一つに開発と平和に資するスポーツの活用として積極的にやっている、このASEANもスポーツ庁国際課が主導でやっているのでSports for Tomorrowの一つとして取り組みが行われている。
  • 実際にどういうジェンダー課題にスポーツが貢献できるのか、海外の文献で整理されてきて、1つ目は、女児と女性の社会包摂を目的としたスポーツ参画機会の保障である。スポーツをする権利の保障については、途上国では、女性がスポーツをするためには、安全なフィールドが確保されなければならないや、女性専用のトイレや更衣室が必要、安全面を考慮して送り迎えが必要だとか、女性がスポーツに参加できるということは、社会において女性が安全に移動でき、安全に公共の場に参加できるという環境が作られていることが必要です。まず、スポーツをする権利を保障することで、整っていく女性の社会参画への可能性があるといわれている。
  • 2つ目として、スポーツで集まった女の子達に、いろいろな教育をしていく、例えば人権教育、SRHR(性と生殖に関わる権利)、リーダーシップスキルの育成、銀行の使い方、ファイナンシャルリテラシー、等のプログラムを用意している。・コミュニティの中で女性が男性同様にスポーツをする姿を通じて、女性の可能性やジェンダー規範の変革を起こしていこうという、3つ目の可能性もある。
  • そういうアプローチを含めて、今回のオリパラとしても、スポーツ庁ASEAN事務局が主体となってまず女性のスポーツ参加を拡大することに政策から取り組んでいるが、スポーツを通じた開発はスポーツを通じて北側先進国と南側開発途上国の関係を強化する、新植民地主義的批判もされている。オリンピック・パラリンピック競技大会を契機にSports for Tomorrowが始まり日本のスポーツ国際協力も慎重になる必要がある。ジェンダー課題においては、スポーツ自体に男性優位主義や異性愛主義が内在しているにもかかわらず、それを活用してスポーツを通じてジェンダー平等とはどういうことだと、既存のジェンダー規範を再生産しているのではないかとの指摘もあったり、西洋のジェンダー平等を開発途上国にそのまま当てはめていいのかという議論もされていて、スポーツを通じたジェンダー課題のアプローチは、現地の女性たちが置かれている状況であったり、現地でスポーツが開発と結びついてどのように認識されているのか、もっと深く考えていかないといけないと言われている。
  • 一方で、今回オリパラがきっかけで、日本がASEAN諸国と連携して国際連携ができていること自体は一歩前に進んでいることなのかなと思っている。

<参考>
S.C.P. Japan https://scpjapan.com/

スポーツにおけるジェンダー平等を促進するための日ASEANワークショップ
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000321.000021495.html
https://www.juntendo.ac.jp/athletes/asean2020/open_symposium/

●都築則彦氏(NPOおりがみ理事長、学生団体おりがみ設立者(ボランティア関連)

  • 日本オリンピック・アカデミーから、はかりしれない影響を受けている。オリンピックムーブメントとボランティアのムーブメントの話しをさせて頂きたい。オリンピックボランティアというとフィールドキャストとシティキャストとが頭に浮かぶが、少し違った角度からオリンピックとボランティアを考えてみようと、話題提供をしていく。
  • 「おりがみ」という団体の由来は、「オリンピック・パラリンピックを学生みんなで盛り上げよう」という頭文字をとって、「おりがみ」として2014年から活動してきている。最近、オリンピックモットーに「together」が入って、みんなで、という我々がずっと活動する上で大切に思っている事が取り上げられて、運命めいたものを感じている。メンバーは250名位いて、東京2020の公式参画プログラムを30以上プロデュースしてきて、メディアにもかなり取り上げられている。
  • 今回のテーマ、東京2020大会に期待することとして、オリンピックムーブメントとボランティアムーブメントが相互作用することで、オリンピックムーブメントとして参画の幅が広がり、ボランティアムーブメントに連帯が生まれることを期待している。
  • オリンピックのモットーの4つ目に「together」が入り、参画プログラム、文化プログラム、ボランティアを通してより多くの人に参加してもらおうという意図があるのは周知の事。これに対してボランティアに関して、分散した様々な活動があるが、統一したムーブメントがある。
  • ボランティアには、サービスという源流とボランティアリングという2つの源流がある。人類誕生以来の地縁組織などの家族を超えた助け合いというサービス、17世紀以降の市民社会、民主主義の発展とともに自分達で社会に主体的に参加するボランティアリング。この2つが結びついてボランティアが生まれてきた。
  • この2つの比率は、国と地域によって異なり、日本は、サービスという比率が強いと思うが、日本の中で十分に浸透しているのか、というのがボランティアムーブメントの中で、大きな問いになっているし、自分も大きな問題意識がある。遥か昔、市民革命の時に社会に関わる権利として、自分達の街は自分達が作っていくという流れの中で、ボランティアリングが生まれてきて、世界の中で脈々と行われてきた。
  • 戦後の中で、世界の中で、中間支援組織が生まれてきた日本でもJICA等が生まれたが、ボランティア、民主主義を広げていくというムーブメントの火つけ役Alec Dicksonは、「ボランティア活動とは市民が自ら自由意志を持って主体的に社会に参画し、非営利活動によって社会を創造し変革するための、すべての人に保障された基本的権利だ」と強調。何か社会的な事象があった時に、ただ見るだけではなくて参加して作っていくのがボランティアのムーブメントである。それがオリンピックムーブメントとどの様に関わってくるのかがすごく重要だと考えている。日本では残念ながら、サービスとしての文脈が強く、教育と福祉を中心にボランティアが推進され、ボランティアの構造が狭い範囲に留まり、さらには教育・福祉を閉じた業界にしているのではないか。
  • こういう中で、「おりがみ」という団体は、オリンピックからスタートして、オリンピックにたくさん参加していくというという活動をしてきたが、オリンピックという社会的なものに対して、人々が参加していく、偉い人だけではなく、自分達のものとしてオリンピックを見ていこうという事で、オリンピックムーブメントとボランティアムーブメントの2つのムーブメントを接近させる役割があったと思っている。
  • 「おりがみ」の活動の中では、オリンピックの参画プログラムになったもの、TTF(TokyoTokyoフェスティバル)になったものもあるが、今日はその中から、「EARTH LIGHT PROJECT」を紹介する。
  • 「CAMPFIRE」というクラウドファンディングの「チャレンジカテゴリー」で歴代3位の10,594,566円を調達し実施したプロジェクト。このプログラムの原点が2016年12月11日の第39回JOAセッション「聖火とは何か。」に参加したこと。
  • 「おりがみ」を立ち上げ、どういう事をやれば意義があるかを議論していた時期。その中で、JOAセッションで聖火についての話しを聞いた。北京オリンピックと2020東京オリンピックの聖火リレーのルートを比べ、「聖火は昔、世界を廻っていた。国境を超えて炎を届ける事に平和の理念があるという事、それが民族の分断を背景にした妨害運動によって、現在は出来なくなってしまった」という話を聞き、世界の聖火リレーが復活することは現実的に難しい中で、これをもし市民活動の中で世界の若者が連携してオリンピックの時期にあわせて取り戻すことができたら非公式だとしても面白いのではないかと学生たちが思いついた。本当に世界を廻るのは難しいが、宇宙はどうなのかと。「宇宙からは国境線は見えなかった」という宇宙飛行士の毛利衛さんの言葉だが、世界を、国境を越えて持っていくことは難しくても国境のない世界に炎を届けることは出来るのではないかという事で、スペースバルーンという宇宙を撮影する技術があり、打ち上げている学生団体はあるので、連携して、聖火リレーのタイミングで、炎と地球と宇宙という映像を撮影し、聖火が本当に込めたかった意味を学生が発信することができるのではないかと「EARTH LIGHT PROJECT」を作った。
  • コロナ禍で夢不足になった学生団体に声をかけ、30団体245名でプロジェクトの実現を目指し、宇宙飛行士、オリンピアン、パランピアンの方々から応援メッセージを頂いて、このプロジェクトを実施した。2021年6月26日に打ち上げを行った。全て学生が開発した技術で、成層圏で燃焼器に炎を灯し、撮影して世界中に配信していく予定だったが、トラブルで炎が付かず9月にリベンジをする予定。
  • この炎が付く瞬間を撮影して世界中に映像配信し、政治的、歴史的な違いがたくさんあり、人と人がなかなか分かり合う事が出来ないが、この炎が付く瞬間だけ、世界の平和とか共に生きていく社会とかを願うことは出来る、気持ちを1つにすることは出来る。オリンピックの過去のプログラムを見ながらインスピレーションを受けている部分もあるが、そういう瞬間を世界中の人たちと共有しようというプログラムを提案して実施してきた。
  • オリンピックをただ見るだけじゃなくてどう解釈してどう行動していくのか、そういう社会事象を自分のものとして捉えてそこにアプローチをしていくという民主主義、ボランティアの流れを汲んで、オリンピックの参画の幅が広がり、ボランティアの最後には連帯し、社会問題ごとに分断されたいろんな夢が、1つに繋がり、共に生きていく社会に繋がっていく。そういう事が出来たら良いというのが「おりがみ」の活動となる。

<参考>
「おりがみ」 https://origami-tokyo.com/
EARTH LIGHT PROJECT https://earth-light-project.com/

●杉山文野氏(JOC理事:プライドハウス東京)
 スポーツ界の多様性を考える ~LGBTの視点から~

  • 先ず自己紹介、杉山文野(すぎやまふみの)1981年8月10日39歳、LGBTQのパレード運営を行うNPO法人東京レインボープライドの責任者。今年の6月から日本フェンシング協会とJOCの理事。元フェンシングの女子日本代表で、生まれた時は杉山家の次女として生まれた。幼小中高と日本女子大学の付属校に通ってルーズソックスを履きセーラー服を着て学校に通っていた。この時期から自分の身体に対する強い違和感があって、幼心にそう言った事は人には言ってはいけないのだろうなと誰にも言えずに幼少期を過ごしたという経験、いわゆるトランスジェンダー。
  • LGBTQという言葉自体は、性的マイノリティの総称として聞きなれてきていると思うが、まだ身近に感じられないかなと思うのがトランスジェンダー。生まれた時に割り当てられた性にとらわれないで、性を超えて生きる人、みんながみんな、手術をするというわけではなくて、手術をしなくてはという人も、手術しなくてもいいかなという人も含む幅の広い言葉。
  • その中でも特に性別違和が強い場合に日本では「性同一障害」という疾患名をつけることがあるが、グローバルでは障害でもなんでもない、1つの生き方。ただ医療的サポートは必要ということで、WHOの精神疾患分類からも正式に外れ、現在では性の健康というところに分類。日本でも遅かれ早かれ、性同一性障害という言葉は無くなる方向ではある。日本では2004年から性同一性障害特例法という法律がスタートして、5つの条件を満たすと戸籍上の性別の変更が出来、現在まで約1万人の方が戸籍上の性別の変更をされている。ただ戸籍変更の条件が非常に厳しく、戸籍を変更したかったら、手術をして生殖機能を取り除くよう定められている。法律で生殖機能を切れとは、野蛮な法律、人権侵害以外何物でもないと世界から非難を浴びている。自分自身は乳房切除とホルモン投与はしているが、子宮と卵巣の摘出はしていないので、この条件に当てはまらず、書類上の全ての表記はフィーメール、女性となっている。
  • 私がJOCの理事になった時に、男性理事なのか女性理事なのかが話題になったが、自分は男性で扱ってほしいが、結局書類上は女性であるため、日本フェンシング協会も法人の役員なので、住民票の提出が必要となり、JOCからIOCへのアクレディテーションカードの情報も、基本パスポートの情報となった。日本の法律が変わらない限り、どうしてもこういうトラブルになってしまい、コミュニケーションが上手くいかなかったという事で話題になってしまった。
  • 「性のあり方は、目に見えない」。これがLGBTQを考える上で1つのキーワードと思っている。性のあり方は自己申告制で、言わないと分からない。・現代の日本社会に育った私たちというのは、相手を見たら必ず異性愛者であるという大前提で会話がスタートしている。ここに1つの課題があるのではないか。そういった方に会った事がないな、という人は、会ったことがないのではなくて気付かなかっただけ、そこにはいないのではなくて、言えないという現実がある。
  • 自分の幼い頃の写真を見ても、女の子だった時期が一度もなく、スカートを履いた写真では、この世の終わりみたいな顔している。幼稚園の入園式の時には、親にスカートを履かされ、嫌だと泣いて逃げていた。
  • 一番しんどかったのは、中学生から高校生にかけて、いわゆる二次性徴というのが始まって、身体は順調に女の子として成長していく一方で気持ちはだんだんと男性としての自我が強くなってきた。まさに引き裂かれるという様な簡単な言葉では済まされない心理状況。自分だけが頭がおかしいのでは、こんなに頭がおかしいのはこの世に一人だけなのでは、と根拠のない罪悪感で自分を責め続ける様な毎日だった。
  • この時期、何が辛いのかというとロールモデルがいない、LGBTQである事をオープンにしながら社会生活を送る大人は殆ど目に見えないので自分がどうやって大人になっていいのか分からない。この時期、自分が女性として年を重ねていく未来が全く想像もつかなかった。かといって男性として暮らしていく選択肢があることも知らなかったので、自分は大人になれないのではないか、大人になる前に死んでしまうのではないか、どうせ死ぬなら早く死にたいと、そんな事ばかりを考える学生生活だった。
  • 今となっては、「早く言ってくれれば良かったのに」「そんなの全然気にしなくていいのに」「俺は気にしないよ」と、そう言ってくれる気持ちは嬉しいが、男性同士のスキンシップがあったら、なんだ、お前「おかまか?」と、そんな会話が当たり前の様に笑いのネタになっていた。特に自分が小さい時には、テレビ番組でも揶揄するキャラが大変流行っている時だった。当事者からすると、家族や学校でもその番組の話題になり、もし本当の事を言って、いじめられたらどうしよう、居場所がなくなったらどうしようと、やっぱり怖くて言う事は出来なくて、むしろ自分も一緒になって、「きもーい」と笑い飛ばしたりして、何とか自分がバレないようにビクビクして過ごすという学生生活だった。外に出ると明るい先輩というのを気取りながら家に帰って泣いているという二重生活も長かった。
  • スポーツは小さい頃から好きだったが、水泳は、水着がどうしても嫌で辞め、バレエは、レオタードが嫌で辞めた。バレーボールも好きだったがブルマーは履けない、テニスもスカート履くのは嫌、剣道は、女の子だけ赤胴に白袴というチームが嫌で辞めてしまった。フェンシングは、男女のユニフォームに差がなかった。これがフェンシングが続いた唯一の理由だった。
  • フェンシングという競技自体は凄く魅力的で本当に楽しく打ち込んでいたが一方でフェンシング界に自分の居場所が無いように感じていた。当たり前の様に、おかま、ホモという言葉が飛び交う様な世界で、自分の身体の変化も出てきて、自分でも僕って思っているのに女子の種目で出ているっていうのが自分でもしっくりこないし、自分のセクシャリティがばれたら、フェンシング界で自分の居場所がなくなってしまうのではないかと怖くて言えず、引退してからカミングアウトした。
  • 自分だけではなく、強かった先輩が、当時フェンシングが一番強かった大学に進学したが、すぐにフェンシング界から居なくなってしまった。何年もしてからその先輩と飲み会したら、彼はゲイだった。スポーツ界、男子のチームでは、男社会で女の子の話しをしたりとか、一緒に女性がサービスするようなお店に行ったり、合コンしたり、そういった事がチームビルディングに使われる様な、ホモソーシャルな世界で、自分がホモソーシャルである、マイノリティであるという事はなかなか言えず結局辞めてしまった。
  • その先輩の同期の別の先輩とお会いした時、開口一番、「あいつオカマなんだろう、大事な時にチーム辞めるから俺たち本当大変だったんだよ」と。これには僕も非常に残念な思いになった。片やフェンシングを好きで強くて続けたかったけれど居場所を感じられなかった選手、片や知らないが故に仲間、大事なチームメイトを辞めさせてしまった先輩、日本のスポーツ界は数えきれないほど、こういった事が起こっているのではと思った。
  • 当事者が何故カミングアウトできないのかというと、一番にはこれまで応援してくれたファンや家族を裏切る行為になるのではないかという不安。ホモ、オカマという言葉が飛び交う中で、ばれたら居場所がなくなるのではないか、協会の関係者に受け入れてもらえなかったら、代表に選ばれないかも、チームに理解がなくなったらパスが回ってこなくなるのではないか、シャワーや更衣室を一緒に使うと、自分にそんなつもりはなくても、見られているのではないか、そういった疑いをかけられたらどうしようといった様々な不安があって言えないという事。・なかなか日本では見ないが世界を見ると、特に今年のオリンピックでは、180名以上の方がカミングアウトされているという事だった。ロンドンの大会23名、リオの大会では56名と、5年で3倍以上ということがスポーツ界の変化を表している数字かもしれないが日本のアスリートでいうと、ほぼ0だ。今回の180数名の中に日本人はまだ含まれていないということで、それはいないのではなくて、日本のスポーツ界の現状がまだ言えないという事ではないかと思う。
  • ここで大事なキーワードは、心理的安全性。もともと職場で心理的安全性が担保されているとチームとしても個人としてもパフォーマンス発揮し易いと、グーグルが出したデータで話題になった。日本のスポーツ界全体でどれ位心理的安全性が担保されているのか、決してLGBTQだけではなくて、様々なハラスメントも含めて、自分がこんなことをやったり、こんなことを言ったりすると殴られるのではないかとか、チームに居場所がなくなってしまうのでないかと、そういった不安がある限りは思い切りプレーが出来ないと思う。これはネガティブな話しというよりポジティブな話しで、それだけ日本のスポーツ界には発揮できていない力が眠っている、これがもっと心理的安全性が高まっていくと個人としてもチームとしても、チームジャパンとしてもっと活躍できるポテンシャルがあると思っている。
  • 特に今年話題になったのがトランスジェンダーのアスリート、2015年からトランスジェンダー選手の参加条件の規定が変わって、手術がなくても参加できるようになった。特に女性から男性に性別移行した人はほぼ無制限、男性から女性に移行した人、テストステロン値を下回る等、ある一定の条件を満たすと参加できるという事だが、これによって参加できたのが、重量挙げのローレル・ハバード選手。トランスジェンダーであると公表しオリンピックに出場するが、ここで様々な議論が巻き起こっている。元男性が女性の競技に出るのは不公平なのではないかと大きな批判を浴びているが、何よりも一番大事なのが、スポーツ基本法にも、オリンピック憲章にも「全てのあらゆる差別の禁止と全ての人にスポーツの機会が確保されなければいけない」そういった大元のルールがあるわけなので、ある一定の属性の人だけがスポーツ界から排除される様なことがあってはならない。
  • 人権の観点と競技における公平性をどういう風に担保していくのか、様々な議論があるが大事なのは、このIOCが決めた規定をより合理的により多くの方が納得できるようなルールにアップデートしていく建設的な批判は大事だが、少なからず今回出場決めている選手は、今のルールを守って出場しているので、その選手に対して、あいつは卑怯なんじゃないかという個人的な批判をするというのはあってはならないと思っている。・今大会に期待するとうことでいうと、多様性と調和という素晴らしいコンセプトを掲げている。これが言葉だけに終わらないのかどうなのかというところかなと思っている。このテーマを掲げたからこそ、どれだけ日本に多様性が尊重されてなかったのかという現実があぶりだされた。だからこそ何ができるのかという事をしっかりと考えていく事が大事だと思う。
  • そんな中で、私たちは、「プライドハウス東京レガシー」というプロジェクトを行っている。2010年にバンクーバーで、スポーツの大きな大会に合わせて、保守的といわれるスポーツ界に対してLGBTQの人たちが安全安心に過ごせる場所を作っていこう、情報発信をしていこうという事でスタートしたもの。これまでも「プライドハウス」のプロジェクトは世界中で行われているがオリンピックの公認プログラムになったのは日本が世界で初めて。新宿御苑に常設で「プライドハウス東京レガシー」が出来たので、是非皆さんもお立ち寄り頂ければと思う。橋本聖子会長とも意見交換し、バッハ会長からも応援のメッセージを頂いている。無料でダウンロードできる冊子、トランスジェンダーの議論に関して考えをまとめたもの、「プライドハウス」からの声明もあるので、公式サイトでご覧頂ければと思う。

<参考>
プライドハウス東京レガシー https://pridehouse.jp/

Part Ⅱ:18:00~18:30

写真展「平和への道」紹介  高田トシアキ氏(写真家)

  • 髙田静雄というオリンピアンが私の祖父になります。祖父が残したネガをここ数年整理し、今回写真展を開かせて頂きました。自分は広島で写真の事務所をしており、撮影や写真展の企画もしている。ネガの整理になったきっかけは、祖父がベルリンオリンピックから帰った翌年に撮られた1枚の写真。1940年の東京オリンピックのグッズと思われる浮き輪を持って少女と友達が写ったもの。この写真を見つけたのが今回の東京招致が決まった頃、これをきっかけに調べていくと、静雄がベルリンに行った時のネガが出てきた。当時のベルリンの街並みが写っており、タイムマシンに乗った気持ちでネガをまとめることができた。このネガを見つけたのが2016年暮れから2017年、静雄が「これをまとめたら」、と言葉で言われた様なネガの見つかり方をした。
  • 2018年にキャノンギャラリーで、「もう一つのオリンピック」として彼が出場したベルリン大会、後に関連するローマ大会の事も含めて発表した。・ベルリン大会当時の選手には、カメラが配給され、選手が写真を撮る企画があったらしく、目黒出版というところから写真集で出ていて、その写真のネガの断片が見つかった。ベルリンオリンピックの次のパリでの親睦試合の写真に当時の世界記録を持っていたトーランス選手と一緒に写っている写真がある。髙田静雄は、明治42年3月生まれ、173センチ、105キロの体型でした。日本では結構大きくて、小さい時は柔道、その後相撲部屋からもスカウトに来たが、次に転身したのが砲丸投げで、3度の日本記録を打ち立て、戦争を挟んで24年間日本記録を持っていたが、体格も含め、世界とは大きな差があった。静雄は、ベルリン大会等で世界との差を感じ、夢破れて帰国し翌年に引退した。
  • 引退後に写真を習っていて、家族の写真、戦前の広島の写真がたくさん残っている。戦前の広島の写真は、原爆で焼けてしまったのと、軍都で風景が撮れなかったという事で珍しいもの。静雄が、写真の勉強をしていたので、自分が写真をセレクトする時も楽だった。オリンピックに出た時の記念や、日本記録を出した時のトロフィーの写真も今回の写真展に飾らせてもらっている。
  • 原爆が落ちた時には、今の中国配電社、今の中国電力に努めていて、そこで被爆した。中国配電社は、爆心地から680メートルの至近距離、彼は8時位に職場が一仕事終える頃、同僚にコーヒーでも飲みに行こうかと言われたが、静雄はたまたま仕事が残っていて助かった。爆風がすごく、左の肩とアキレス腱を痛めて、身体の左の方を壊してしまった。娘は、建物疎開の作業に行く時に原爆を受け、二週間後に亡くなった。長男は、小学校への登校中に被爆し、後ろを向いていたため背中の方を火傷した。家族も被爆し本人も人事不省で寝込んでいる時代があった。彼が9年間寝たきりから、たまたま見た写真雑誌から、昔やっていた写真を、また長男と共に始め、原爆慰霊碑等での写真を撮った。原爆ドームにも当時入れたので、そこにいる野良犬や祈る人を撮影。昭和33年には原爆慰霊碑の名簿を8月6日に見ている写真を撮った。自分の娘の名前も名簿に見つけに行き写真も撮ったが、作品にはしていない。彼は悲しかった事は沢山あるが、出来るだけ前を向こうとする性格だった。
  • この1年前に今回の写真展のタイトルとなった「平和への道」という写真を撮った。平和記念公園にアメリカのご夫妻がたまたま来られていて、モデルを頼んだ。昭和32年というとまだアメリカは敵国という人もいた時代だったが、彼は、これからは一緒に次の道を歩んで行かないといけないという事で、お二人に一歩前に出るポーズを取る様にお願いをした。「悪いのは人間ではない、戦争とか原爆が悪く、人間同士は助け合わないといけない」という概念が彼の中にあった。本人もベルリンに行き、海外の人とも仲の良い人もいて、海外の人が嫌いではなかったというところもあったと思う。この写真が6月1日の写真の日コンテストで通った。東京の入選者の展示にこの写真が飾られ、たまたまモデルの夫妻が東京でこの写真を見て、主催の日本写真協会を通して、髙田静雄に焼き増しを頼んだ。協会も「この写真を撮った事も、次の一歩を踏み出す事だったが、たまたまこの写真をモデルの夫妻が見つけてくれた事自体、写真を夫妻が住むイリノイ州に送った事自体が平和への道だった」と記事にしてくれた。
  • 「平和への道」が良い写真ということで、大好きな先輩で、心配してお見舞いに来てくれていた三段跳びの大島鎌吉さんに陸上競技マガジンに「競技の心」という40回の連載をもらった。寝込んでいたこともあってよくいわれるスポーツ写真は撮っていない。平和、希望というテーマで写真を撮った。彼がスポーツマンだからこそ撮れる写真が40カット連載された。写真として洗練された写真、スポーツの間のちょっとしたひととき、子供の食事風景や、女の子が笑いながら準備運動をする姿も撮影し、そういう姿が当時の希望でもあった。この中でも、けがをした選手が他校の選手に助けられる場面の写真が「スポーツマンシップ」という作品となり、「陸上競技に敵はいない。負傷した相手に肩を貸す心、相手に肩を借りる心、これが陸上競技の真の精神であり、スポーツマンシップなのであろう」という言葉を残している。彼は、痛むことも知っているし、助けることも知っている。痛む人は遠慮もあるかもしれないが肩を借りる事自体も大事な事なんだという事も一緒に話している。これは「平和への道」にも繋がっている。
  • 40回の連載の中で、「準備運動」というタイトルの写真は、ローマオリンピックの芸術祭に通った写真で、日本で10人程の写真家が通り、芸術祭を飾ったが、アマチュアカメラマンとしては、彼が一人だけだった。彼は、身体も壊し、家業もあって職業カメラマンにはなれなかったが、アマチュアとして頑張った。スポーツの時もそうだが、アマチュアというところに誇りも持っていた。この完成度の高い写真が通り、とても喜んでいた。これで、ベルリン、ローマと違う形でオリンピックに参加した。彼は、未来とか明るさというストーリーでたくさん写真を撮っているが、寝たきりの時間も長かったがあそこに行けば、これが撮れると考察して支度して撮影に行っていた。錦帯橋で撮影した「傘」という写真は、世界を一周して、ドイツの写真雑誌にも掲載されて帰ってきた。彼は、自分がベルリンに行き、世界を半周し、写真も世界を一周したという誇りもあった。彼は昭和38年の12月10日に亡くなったが、翌昭和39年には東京オリンピックが決まっていたので、行けるものなら行きたかったと思う。寝たきりでほぼ動けなかったが望遠レンズを買っている。もしも行けたらと思っていたが他界した。息子の敏がその望遠レンズで翌年の広島の聖火ランナーを撮った。(この2枚の聖火ランナーの写真を一昨年カラー化し編集しなおして、東京の写真美術館に飾られるところまでこぎつけたがコロナで飾られなかった。)
  • 昭和39年東京大会の開会式に敏に大島鎌吉氏より招待があった。開会式に静雄の遺影を持って行って良いかとの問いに、大島鎌吉が手紙を送ってくれた。大島氏は当時、毎日新聞の記者で、東京オリンピックの団長でもあったが、手紙は、織田幹夫氏とも相談し、遺影を持ってスタンドにいるのは大時代的で、それが新聞種になるのはどうだろうかという事で、織田氏か大島氏が遺影を懐に入れて入場したらどうか、その方がスポーツの友情の真実でしかも慎ましい姿の様に思われる、との返信であり、昭和39年の東京オリンピックの開会式には、髙田静雄の遺影を懐に入れて、大島氏が入場してくれた。これで髙田静雄は、3回目のオリンピック出場を果たしたという風になる。
  • 敏の撮った開会式の写真。祖父髙田静雄が3回のオリンピックに出たという写真展を2018年に東京キャノンギャラリーで開催し、それを広島で里帰りさせて今夏の写真展が出来、今日の発表になった。
  • 8月9日にNHKラジオで、「被爆オリンピアンの遺したメッセージ」として番組化され、髙田静雄の事がラジオドラマとして放送される。戦没オリンピアンについては、もともと大島鎌吉氏が調べられており、その後に広島大学の曽根幹子先生により調査されており、髙田静雄の事も戦没オリンピアンという事で調査が進められている。

<参考>

髙田静雄展「平和への道」―オリンピアンの心と写真家の眼― http://www.izumi-museum.jp/exhibition/exh21_0626.html

8月9日NHKラジオ第一「スポーツの力は分断を超えるか」髙田静雄の物語がラジオドラマ化。原爆の日ラジオ特集「被爆オリンピアンの遺したメッセージ」
https://www.nhk.or.jp/hiroshima/hibaku75/hibakuolympian/index.html

NHKWORLD
https://www3.nhk.or.jp/nhkworld/id/news/backstories/1735/

Part Ⅲ:18:30~19:00
クロストーク「東京2020大会に期待すること/期待すべきこと」
吹浦JOA会員より、開会式への現場立ち合いの模様、今回の大会開催まで、運営に関わる中での感想が話題提供された。

舛本実行委員長
大切なことは、日本人選手の動向に一喜一憂するメディアの報道をさておいて、こういう事態の中でもオリンピックのあり方を考えるとともに、「スポーツは社会を写す鏡」といわれるように、オリンピックを通して平和とか人権とか民主主義とか様々な社会の在り様を、日本社会全体を考え直す、そういう契機になればと思う。実はこの視聴者のなかには、建石先生の話された人権コミュニケを東京でもレガシーとして引き継ぎたいという形で努力されているJOAの会員もいる。それぞれが出来ることをしながら、良い社会を作っていく、良い国際社会を目指していく活動をしていくということを今回のオンラインイベントで出来ればと思う。8/9のクロージングイベントでも、また言いたい事を言い合って、JOAのムーブメントに引き継ぎたいと思う。

飯塚俊哉コーディネーターによる総括コメント

「バーチャルJOAハウス」のオープニングフォーラムという事で、東京2020大会へ期待すること、期待すべきことというテーマの中で、会員、ゲストの方々から様々な立場、視点による、多様な意見、話題提供があり、東京2020大会を見ていく上で、貴重な学びの場となった。今後の大会、スポーツの動向、オリンピズムを考察していく中でも、参考になるフォーラムとなったと考える。

(文責 飯塚俊哉)

クロージング:JOA舛本副会長

主催:NPO日本オリンピックアカデミー(JOA)
    https://olympic-academy.jp/

   

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1.July 24, 2021 17:00 – 19:00 (Tokyo Time)
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2.July 26, 2021 17:00 – 19:00 (Tokyo Time)
 Taiwan Evening

3.July 29, 2021 17:00 – 19:00 (Tokyo Time)
 Singapore Evening

4.August 2 17:00 – 19:00(Tokyo Time)
 Special Lecture

5.August 5, 2021 17:00-19:00(Tokyo Time)
 German Evening

6.August 9, 2021 17:00-19:00(Tokyo Time)
 JOA House Closing Forum (in Japanese only)

 

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4.8/2(月)17:00- 特別レクチャー(終了)
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6.8/9(月)17:00- クロージングJOAフォーラム

 

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