下記要領にて開催されたJOAコロキウム100回記念の様子を報告いたします。
報告文は、大津克哉JOA会員によるものです。
写真入りの報告文書(PDF)はこちらからダウンロードしていただけます。
<趣 旨>
JOAコロキウムの100回目の開催記念として、スポーツ映像表現、特にオリンピックの映像表現に関する特別コロキウムを開催します。映像表現の中心的ジャンルであるスポーツ映像表現が持つインパクト(影響力等)について論議すると共に、オリンピック・ムーブメントにおけるその可能性について提案します。
<主 催>
(NPO法人)日本オリンピック・アカデミー(JOA) 「オリンピック研究委員会JOAコロキウム部門」
<日 時>
2010年11月14(日) 13:00-17:30 開 場:12:30
<場 所>
立正大学大崎キャンパス11号館総合学術情報センター棟 11F会議室(山手通り入り口の建物)
(最寄り駅:JR大崎駅、五反田駅より徒歩5分)
アクセス:http://www.ris.ac.jp/guidance/cam_guide/osaki.html
<内 容>
1. 映像鑑賞:約1時間程度
「アマチュアカメラマン師岡宏次氏がグループ制作した東京オリンピックのカラー8㎜記録映画」等
2. パネルディスカッション:約3時間程度
テーマ:「スポーツの映像表現の現在:写真、テレビ、映画そしてネット」
企画&コーディネーター:舛本 直文、 曽根 俊郎さん(両JOAコロキウム部門委員)
提案者
1)写真ジャンル:岸本 健さん(フォート・キシモト、JOA会員):写真プレゼン・インタビュー方式
2) TVジャンル :山本 浩氏さん(法政大学スポーツ健康学部教授:元NHK解説委員)
3) 映画ジャンル:竹藤佳世さん(東京都立大学出身の女性監督:『半身反義』など)
4) インターネットジャンル:清水諭さん(筑波大学人間総合科学研究科教授:現代スポーツ評論編集委員)
<参加費>
JOA会員・学生は無料、 非会員は500円 (資料代として)
<報告>
2010年11月14日(日)、立正大学大崎キャンパスにて「第100回記念コロキウム」が開催された。テーマは「スポーツ映像表現の現在:写真、テレビ、映画、そしてネット」。第1部映像上映、第2部パネルディスカッション。パネリストは、岸本健会員((株)フォート・キシモト代表)、山本浩氏(法政大学スポーツ健康学部教授:元NHK解説委員)、竹藤佳世氏(東京都立大学出身の女性監督、城西国際大学准教授:『半身反義』など)、清水諭氏(筑波大学人間総合科学研究科教授:現代スポーツ評論編集委員)の4名。参加者は学生を含め33名。当日の司会進行は、舛本直文会員(JOAコロキウム部門)によって進められた。
記念コロキウムの趣旨説明および4名の発表概要は以下の通りである。
記念コロキウムの趣旨:コーディネーター:舛本直文氏(JOAコロキウム部門委員)
オリンピック研究委員会の1セクションであるコロキウム部門が2002年から毎月1回、IOCの公式記録映像等を題材に当時の競技やオリンピック史、社会などを振り返ってディスカッションを行う勉強会を行ってきましたが、ここまで8年半、今回で100回目を迎えることができました。今回は、JOAコロキウムの100回目の開催記念として、スポーツ映像表現、特にオリンピックの映像表現に関する特別コロキウムを開催する運びとなりました。スポーツ映像のジャンルとして「写真」「TV」「映画」「インターネット」について代表する4名のパネリストの方々にお集まりいただきました。映像表現の中心的ジャンルであるスポーツ映像表現が持つインパクト(影響力等)について議論すると共に、オリンピック・ムーブメントにおけるその可能性について提案することを記念コロキウムの趣旨とします。
第1部:オリンピック映像上映
まず、IOC発行の雑誌『Olympic Review』に付録として付いていた各オリンピック大会や会議の様子が収められた最新映像、そしてアマチュアカメラマンの師岡宏次氏がグループ制作した「東京オリンピック」のカラー8mm記録映画が紹介された。
① “Best of Singapore 2010”・・・シンガポールで開催されたユースオリンピック大会についての映像。大会ではCulture and Education Program(CEP)が注目された。2012年には冬のユースオリンピック大会が開催される。シンガポールでの大会のDNAをどう次の大会に引き継いでいけるのか注目するところである。
② “Vancouver 2010”いろいろな問題が出た大会だったが、収められている映像はポジティブなものばかりであった。
③ IOC総会・コングレス@コペンハーゲン・・・2016年の大会開催地の決定、5つのテーマでのコングレス、ゴルフとラグビーが新たに加わる、ユースオリンピック、デジタルメディアなどの話題が出た会議であった。
④ “Best of Beijing 2008”・・・国威発揚の大会であったと記録映像を見ても否めない感がある。
⑤ 『東京オリンピック記録映像』・・・第1部。1964年東京オリンピック大会を舞台とした映像。スタジアム外での映像が豊富であった。聖火リレーの煙が周辺を霞ませるほどモクモクとしていたこと、スタジアムに入る前から選手たちは行進をしていたことなど興味深い映像であった。
⑥ 『TVシンコムにのって』・・・『東京オリンピック記録映像』の第2部。テレビオリンピックといわれる先駆け。当時の東京オリンピック大会の雰囲気が非常によくわかる映像であった。
第2部 パネルディスカッション:「スポーツ映像表現の現在:写真、テレビ、映画、そしてネット」
1) 写真ジャンル:岸本健氏((株)フォート・キシモト代表)
まず、「写真」のジャンルを代表して、東京オリンピック大会以降すべての大会を取材し映像を記録している岸本氏が登壇した。まず「ユースオリンピック大会」や「オリンピック・ムーブメント」と題したスチール写真を動画のように加工したマルチフォトが紹介された。岸本氏によると、以前はそれほどオリンピック大会のセキュリティも厳しくなかったようで、「撮りたい」という気持ちでここまでやってきたと振り返られた。また、近年、映像の世界が変わってきていることを指摘する。カメラの性能について連射機能など機材は良くなったものの「何を撮るか」ではなく「撮っておけばよい」というようにその一瞬、一瞬を捉えた一発勝負ではない「質」の低下を嘆く。
現在は、これまで撮影した800万枚ものモノクロ・カラー写真のアーカイブ化のために大切なものからスキャニングしデータを整理することに追われているのだそうだ。「写真は記録」、日本のスポーツ界のために残していかなければならない。これからも撮り続け、そして整理していくということも併せてやっていかないとならないと述べた。
また、このような仕事をしていると選手とも親しくなり親交のあったオリンピアンとの裏話も伺うことができた。
2) テレビジャンル:山本浩氏(法政大学スポーツ健康学部教授、元NHK解説委員)
次に「TV」のジャンルを代表して山本氏が登壇した。TV放送の歴史を紹介するとともに映像の果たす役割について述べた。東京オリンピックを機会にスポーツ放送の主役がアナウンサーからディレクターへと代わる。役割の変化としては、「声中心の実況」から「見せる実況」へと変わり、映像が果たす役割も拡大する。競技場にいるかのような実感を徐々にもたらし、表示される字幕によって色々な情報が加わるだけでなく、画面の効果、画面がずれながら別の画面に切り替わるワイプやフェイドというような技術が用いられるようになった。こういった転換期が東京オリンピックの時であったようだ。
また、現場での放送経験を通して、放送者としての役回りやスポーツ中継について語られた。特にスポーツ放送の心構えとして、優勝が決まるような場面では勝利が近づいても早よみをせずそれをなるべく口にしないことが重要だと述べ、何を伝え何が求められているのか、または何が起こりえるのかということを察し、試合の流れに打楽器的なリズムのしゃべりを乗せているのだというテクニックについても興味深い話が伺えた。
3) 映画ジャンル:竹藤佳世氏(映画監督、城西国際大学メディア学部准教授)
次に「映画」のジャンルを代表し竹藤氏が登壇した。映画に見るオリンピックのスポーツ表現について、ベルリンオリンピックの公式記録映画を例に挙げ、単なる記録ではなく美的に高められた映像表現が生み出され、後のスポーツ表現に多くの影響を与えたと語った。また、市川崑氏が監督を務めた映画『東京オリンピック』では機材や技術面、人材の育成などの発展に大きく寄与すると同時に文化的な発展にも繋がったことを指摘する。さらに、竹藤氏が監督を務めた『半身反義』で『東京オリンピック』の演出部の監督として関わった山岸達児氏を取り上げてインタビューした様子も紹介いただいた。
オリンピック大会という祭典は、都市や生活を変化させるように単なる一過性の娯楽ではない。まさにそのオリンピック大会を記録する映画は単なるスポーツの記録ではなく「人類のタイムカプセル」として後世に残る遺産なのだと語った。
4) ネットジャンル:清水諭氏(筑波大学人間総合科学研究科教授、現代スポーツ評論編集委員)
最後に「ネット」のジャンルを代表し清水氏が登壇した。Web時代の到来でスポーツ映像の配信システムが変容するようになった結果どのような見方になったのか、デジタルのテクノロジーになって何が変わり、何が変わっていないのかその現状を取り上げ問題提起した。
今では自分で撮影し編集、コメントを付けてブログなどを通じて動画をアップしているという現状が報告された。以前は映像に信用性の価値があった。しかし、即時的に視聴できること、そしてアーカイブも自由に手に入れることができる状況、テクノロジーがシステム化していく時代において誰が撮った映像か不明、TVを見ながら自分たちで実況やコメントを入れる行為についてIOCは今後、メディア企業とどう付き合っていくのかが注目される。このような流れの中、JOAを含めアカデミア内での意見交換が重要になってくると提言した。
【まとめ】 各ジャンルでのオリンピック・ムーブメントにおける可能性は?
清水氏: 授業で学生に映画や画像のアーカイブを見せるとその時代や状況がよく伝わる。学生たちは1964年の東京オリンピックの映像を見ると、その当時は今と違って日本の人たちはきびきびして未来に希望があるというコメントを言う。また、都市の造られ方、人種などオリンピックというものから社会問題を含め、大学においては大きな教養の材料となる。故に映像や画像は大事だ。現在TVの地上波はある特定のメガイベントに集中しているが、何を伝えていくのか、結果だけではなくそこにどういう人間の身体と心の問題があるのかというところから発信していく必要があるのではないだろうか。スポーツだけということではなく、オリンピックのチャーターにあるような平和や友好、環境問題、人種・民族の問題というような社会問題に対して派生させることも重要だ。
竹藤氏: グリーンオリンピック、リオのエコロジーの問題というようにオリンピックのコンセプト自体が変化している。映画として残すという時にはどういうオリンピックをやるのかというコンセプトのところから一緒に映像もやっていかないと本当の意味でオリンピックをきちんと残すことはできないのではと思う。日本にオリンピックがくる際にはぜひ関わっていきたい。
山本氏: スポーツの素晴らしいところはそれなりにおのずと中にリズムがある。そのリズムに打楽器的に声を付けていく時に映像さえしっかり組んでいれば大変良いものを残すことができる。そのスポーツが持っている自然の流れの中でいかにうまく伝えられるかが進んでできればもっとTV映像、映画も含めて映像と音声でもってスポーツを現場とは違った産物として伝えることができるのではないかと思う。
舛本氏: 4年後には東京オリンピック開催から50年を迎える。50周年事業に向けてTV界も映画界もこぞってオリンピック・ムーブメントについて考え直す機会になればと思う。
第3部:特別委酒屋談義(大ビンゴ大会含む)
「第100回記念コロキウム」後は会場を移し、特別居酒屋談義が盛大に行われた。また参加者でオリンピックに関係する景品を持ち寄りビンゴ大会も行われた。JOAコロキウム部門はコロキウム150回開催に向けてまた新たなスタートを切った。
付記
岸本氏は所用のため、報告後退席されました。パネルディスカッションに参加されなかったのが残念でした。岸本会員からは写真集、Olympic Movementパンフ、1964年記念タイピンなど多くの資料提供がありました。また、秩父宮記念スポーツ博物館伊藤敬会員からも「スポーツ文化」の資料提供を頂きました。最後に、日曜日に関わらずご参加いただいた皆様とシンポジストの方々、会場を提供いただいた釜崎会員と学生さん、開会のご挨拶と多くのビンゴ景品を頂いた和田会員と服部会員、父君の映像を提供していただいた師岡会員、記念ポロシャツ作成に奔走いただいた佐藤会員、ビンゴ係の加藤会員と院生の皆さん、99回までの開催報告作成に尽力いただいた奥村会員、記録係の大津会員他、JOAコロキウム部門の会員諸氏の献身的サポートにより第100回記念特別コロキウムは大成功に終わりました。ここに記して感謝いたします。(JOAコロキウム世話人:舛本直文)