ホーム > 第0号, 第0号記事 > 2006ワールドカップを取材して

2006ワールドカップを取材して

2009 年 10 月 10 日

-ドイツのオリンピック施設訪問-


執筆・写真:白髭 隆幸

※この記事は2006年7月に執筆されたものをJOA Review アーカイブ(第0号)に掲載しています。

2006年7月9日、FIFA(国際サッカー連盟)ワールドカップ決勝戦が行われたベルリン・オリンピックシュタディオンには、オリンピック旗が翻っていました。

観客で埋まる2006年ドイツ・ワールドカップ会場

観客で埋まる2006年ドイツ・ワールドカップ会場

なぜワールドカップ決勝戦の場にオリンピック旗なのか? その理由は定かではありません。
6回連続でワールドカップを取材することができました。6月5日に日本を出発、7月13日に帰国するまで39日間、全12会場で22試合を取材することができました。
28年ぶりに訪れたベルリンを中心に、ドイツのオリンピック施設の現在をリポートします。

1936年、第11回オリンピックのメインスタジアムになったオリンピックシュタディオンでは、決勝戦を含む6試合が行われました。
メディアセンターは、1936年のオリンピック当時、マイフェルト(5月広場)と呼ばれた大きな芝生の広場にありました。ポロや2万人のデモンストレーション・マスゲームを行ったところに巨大なテントを建てて臨時にこしらえられたものですが、さすがに決勝戦の会場だけあって立派なものでした。
メディアセンターからの特設階段、通路を通りスタジアムに入りました。回廊が意外と狭いのにはビックリしました。
わたしにとっては28年ぶりのベルリン・オリンピックシュタディオン。屋根はついたものの基本的な骨格はそのままです。なんでも今回のワールドカップのために大理石に番号を振って分解掃除し、再び元の位置に戻す工事を4年間かけておこなったそうです。

基本的な骨格が1936年当時のままのオリンピック・シュタディオン

1936年当時の骨格を残すオリンピック・シュタディオン

オリンピックシュタディオンを1周ぐるっと回ってみました。スタジアム後方の鐘楼(グロッケンタワー)上に釣り下げられていた大きな鐘(『わたしは世界の若人を招く』とドイツ語で彫ってあります)も昔通りメインスタンド後方に置いてありました。ナチスの鍵十字が鋳潰してあるのが印象的です。

バックスタンド後方には、オリンピック・スイミングシュタディオンが健在でした。スタンドは古色蒼然としていますが、プールには奇麗な水が張ってありました。現役のプールのようです。
ベルリンオリンピックの優勝者が彫ってあるマラソンゲートの壁にも近くまで行けました。「SON JAPAN」の文字が印象的です。サッカーはベルリンオリンピックではイタリアが優勝しています。今回のワールドカップでもイタリアが優勝したわけですから、ベルリンのイタリア不敗神話は生き続けているようです。

オリンピック・スイム・スタディオン

オリンピック・スイム・スタディオン

ワールドカップ決勝戦前のアトラクションは、聖火台前の階段で行われました。グラウンドを痛めないので良い趣向であると思いました。試合中はボランティアの人たちが階段に座って試合を観戦していたようでした。

決勝戦の2日後、ブランデングルグ門近辺のお土産屋に1936年オリンピック開催時のベルリンの地図が売っており、それを買い求めてから、現在のオリンピックと比較しながら歩くことにしました。決勝戦直後は、後片付けのためにオリンピックシュタデイオン周辺が閉鎖されており、シュタディオン自体には近づけませんでした。
1万人収容のテニスのセンターコートは、子供の遊び場になっており、その周辺で道に迷う一幕もありました。もう帰ろうと逆にまわりSバーン駅前のレストランでビールを一杯飲んだら元気が出まして、裏に回ってみると、なんとマイフェルトのグロッケンタワーが登れるとのこと。しかもエレベータでかなり高くまでいける(お代は3ユーロ50=約500円)というではありませんか。さっそく登ってみました。
いやあ~、ベルリン市内が一望できました。目のまえにはオリンピックシュタディオン。感動です、古地図で確認したところ、さきほど道に迷ったところ以外は、ほぼ1936年から変わらず施設は残っているようです。
決勝が行われたオリンピックシュタディオンの芝生は奇麗に剥がされていました。多分希望者に少しずつ小分けにして頒布されるのでしょう。

メインスタジアム裏に移動された鐘

メインスタジアム裏に移動された鐘

塔には新しい鐘(本来付けられていた鐘は、戦後イギリス軍が塔を爆破した際に地上に叩き落とされ、それをメインスタジアムの裏に移動した)も釣り下げられていましたし、塔の内部は博物館になっていて、いろいろとドイツの資料が詳しく解説されていました。ここらあたりも歴史を残すのか、それとも負の遺産だからすてるべきなのか、むつかしいところですね。

ブランデンブルグ門の横にある、あのホテルアドロン(1940年、東京が第12回オリンピック開催国に選ばれた際、IOC総会が開かれた老舗ホテル)にも行きました。東ベルリン時代は二流ホテルになり下がっていたようですが、統一後、戦前と同じように超高級ホテルに復活したようです。ちなみに1泊ルームチャージが5~6万円するそうなので泊まるのは断念。テラスでご当地名物のベルリーナヴァイセのグリーンを飲んでみました。白ビールに木苺のジュースを混ぜたもので、ちょっと甘いのですが、とても美味しかったです。

ベルリンにはオリンピックの痕跡をたくさん見つけられましたが、1972年のミュンヘン・オリンピックの会場は、まったく今回のワールドカップとは関係していませんでした。パブリック・ビューイングの会場には使われていたようですが、本番は新しく建設されたAOLアレナが会場になっていました。
1974年の西ドイツワールドカップの際には決勝戦が行われたミュンヘン・オリンピックシュタディオンですが、老朽化がひどくて現在のイベントでは使えないそうです。70年前、1936年のベルリンのスタジアムが復活したのに、34年前のスタジアムが使用できないというのは皮肉ですね。

準決勝戦と決勝戦のインターバル休みの2日間を利用して、チロルに行ってみました。1936年の第4回冬季オリンピックが開かれたガルミッシュ・パルテンキルヘンと1964年の第9回と1976年の第12回冬季オリンピックが開かれたインスブルック(オーストリア)のシャンツェ(ジャンプ台)を訪問しました。
ガルミッシュ・パルテンキルヘン駅裏にあるアイスシュタディオンは、フィギユアスケートとアイスホッケーの会場になったところ。木の板で作られたアリーナは今でも現役のスケート会場です。夏の間はコンサートの会場になるため、中には入れませんでしたが、屋根がつけられて現役バリバリの競技場です。
そこから、いかにもチロルという雄大な景色を眺めながら町外れに移動。オリンピックシャンツェがあり、開閉会式会場にもなったスキーシュタディオンを訪問しました。

子どもたちがサッカーを楽しむシャンツェのブレーキング・トラック

子どもたちがサッカーを楽しむシャンツェのブレーキング・トラック

シャンツェのブレーキングトラックは奇麗な芝生が植えられており、そこでは子供たちがサッカーを楽しんでいました。その横のノーマルヒルシャンツェではサマージャンプをやっているし、日本の大倉山や白馬よりも、ずっと有効利用をしているようです。オリンピック開催は80年前のことですから、ドイツという国は一筋縄ではいきません。
わたしにとって収穫だったのは、オリンピック金メダリストの刻印を見つけたこと。門柱にベルリンのオリンピックシュタディオン同様、優勝者の名前がドイツ語で彫り込まれていました。過去2回の訪問時には気が付きませんでしたから、大きな成果です。
シャンツェ正面には、その名も「オリンピックハウス」というロッジ風の建物があり、1階はレストラン、2階はホテルのようでした。1936年当時から大切に使っている建物のようで、そこのテラスで食事を摂ったのですが、夕暮れのシャンツェを眺めながらのディナーは、なかなか雄大で気持ちがよかったです。すっかり暮れてしまうとラージヒルのジャンプ台がライトアップされ、なかなか良い感じでした。

インスブルックの一つ手前の駅近くにべルクイーゼル・シャンツェが見えました。インスブルック駅のインフォメーションで手に入れた地図によるとそれが1964年と1976年の冬季オリンピックの開会式とラージヒルジャンプ(当時は『90m級純ジャンプ』と呼ばれていました)が実施されたシャンツェです。

ベルクイーゼル・シャンツェのジャンプスタート地点

シャンツェのジャンプスタート地点から

ギリシャの円形劇場を思わせシャンツェは、思っていたより小ぶりでしたが、なかなかコンパクトなものでした。入場料を払って入れば、ジャンプのスタート地点までゴンドラとエレベータであがることができます。
二つある聖火台の下には2大会の全種目の金、銀、銅メダリストの銘版がはめ込まれていました。
2002年に新設されたスタートハウス上まで登ると、インスブルックの街は一望のもとです。そこでアイスシュタディオンの位置が確認できたので、行ってみることに。横には2年後のサッカーユーロ2008(ヨーロッパ選手権)で会場の一つに選ばれているチロルシュタディオンが改修中でした。アイスホールの横にスピードスケートの会場があることもわかりました。

以上が、今回のワールドカップの際に見て回ったオリンピック関連施設のレポートです。ぜひ機会があれば訪ねてみてください。

コメントは受け付けていません。