2018年ブエノスアイレスYOG視察報告
執筆:舛本直文(首都大学東京特任教授/JOA副会長)
10月6日(土)開会式
IOCのOlympism in Action Forumが終了後、昼食を済ませ、夜の8時からの開会式に備える。大津君と2人でホテルを夕方6時に出発し、地下鉄で会場近くに向かう。IDパスで無料のはず。しかし、開会式を中心街の路上(7月9日通りのオベリスコ)一体で開催するため、最寄り駅は地下鉄も通過。しかたなく、終点まで乗って歩いて引き返すことに。多くの人たちが会場前で降車した理由が理解できた。こちらは、情報が無いのでただうろうろするだけ。
IOA仲間であるポルトガルのTiagoと一緒になったセキュリティ・チェックでは、IOCPassかメディアか、またはインビテーションチケットがないとメインステージには入れない、と入場を拒まれた。しかたなく、一般の人たちと同じ場所で開会式を迎えることに。観るといっても大きなビデオスクリーンを観るだけ。大がかりなパブリックビューイングにすぎない。私たちはIDがあるので観ることができることと思い込んでいたが、やはり現実はそう甘くはなかった。事前のForum事務局の返信では、開会式は大丈夫、といっていたので予想外の展開である。ポルトガルの知人Tiagoも同じ羽目に。仕方なく空いているスペースで9時過ぎまで頑張ってみたが、腰と足の疲れが出て帰えることに。会長スピーチや聖火点火は観ることができなかった。この点の情報不足は大きい。「開会式を逃すな」とバッハ会長が言っても、Forum参加者へのフォローがあまりにも杜撰である。もしチケットが必要なら応募したのにと悔やむ。東京2020大会ではこのような扱いは無いようにして欲しい。
しかたなく、早々に開会式見物を切り上げて地下鉄に向かうとIOCシャトルバス担当のボランティアの女の子が地下鉄駅まで親切に送ってくれた。有り難い限りである。終点のCathedral駅から途中でH線に乗り換え、また終点まで。途中でメッシ人形のある名物レストランで遅い夕食を楽しむ。ホテルに帰ってからも日本酒でくつろぐ。地元のテレビが開会式の様子をテレビで映していたので少し様子が分かる。
(翌日のO君のメール情報では、OiA参加者の中にはNZチームのようにメディア席で観ることができた人がいたそうである。この不公平感は大きすぎるなあ。)
10月7日(日)YOG初日
朝タクシーでYOG Parkへと向かう、メインストリートの7月9日通りは昨日の影響で通行止め。そのため、狭い道を迂回してタクシーで乗り込めるところまで突っ込む。そこから、メディアなど関係者用のゲートを通過してメインプレスセンターへ入り込むことができた。普通なら入れないのだろうが、いい加減なセキュリティ・チェックである。テント内にWifiがあるが2018BuenosYOGのサイトが集中アクセスのためにダウンして情報が取れない。掲示でいくつか情報確認し、水をゲットしてYOG Park内に入る。しかしながら、情報が悪くて何がどこで実施されているか全く分からない。とにかく掲示板を見て文化プログラムが多い地区を回ることにした。
先ず、昨夜観ることができなかった聖火台で記念撮影。同じ聖火台がここにもつくられていたのであろうと推測する。多くの人たちが記念撮影をする人気スポットである。YOG Park会場入り口の右サイドには、子ども達が遊んで学べるように様々な工夫がしてあるテントが連なっていた。今日は日曜日なので特に家族連れが多いようである。SAMSUNGのスポンサーハウスは人気のようで長蛇の列ができている。VR体験はwinter world体験と書いてあったので、おそらく平昌と一緒のVRであろう。列に並び携帯登録して、SAMSUNGのトートバッグを入手。ハウスの中に入って様々な体験をするとSAMSUNGのpinバッジがもらえるようであったが、それにはトライせず。さらに奥には、ユニバシアードのブースや国連難民センターUNHCRのブースもあったので覗いておいた。UNHCRでは昨日印象的なスピーチをしたYusra Mardiniがいたので声をかけて記念写真を撮らせてもらった。IOAと休戦センターのブースも訪問。友人のSezar Torresもここに訪問していた。IOAスタッフのAndreaが記念にバッグをプレゼントしてくれた。UN環境ブースでは偶然筑波大の大林君に出会った。副学長の女性と一緒に行動していたが、お供は大変であろうと推察する。
YOG Park会場内では、多くの市民が競技観戦しようとして並んでいたが、どこで、どんな競技を、何時から?等の情報がないし、どう並んでいるのかの整理も悪い。Park内の情報提供と列に並ぶ案内などの運営の悪さが目立っていた。まだ初日なので仕方が無いのかもしれないが、8,000人いるというボランティア達の配置はどうなっているのであろうか? しかも公式websiteがダウンして情報をゲットできないと来ていた。最悪の初日のスタートである。
Park内を歩き疲れたので、早めにタクシーでホテルに戻ることに。しかし、タクシー乗り場までも結構歩く。バス停一駅分以上あった。年寄りや障害者にはアクセシビリティが問題であろう。さらに、タクシーに乗ってもハイウェイは大渋滞である。日曜日の午後、多くの車が一体どこに向かうのかと、、。途中に大きな公園があちこちにあり、多くの市民が繰り出してピクニックやBBQを楽しんでいる姿に驚く。途中のテクノパークでのアーチェリー会場には人出はあまりなかったが、タクシーが迂回した途中の大きなグリーンパークでのテニス会場あたりには、やはり大勢の人たちが訪れていた。偶然迂回してくれたため、多くのYOG会場を回った。
私たちのホテルのあるレコレータ地区も多くの人出。遅い昼食をビール専門店でピザと6種のビールの試し飲みセットで済ませてホテルで休眠。翌日のチェックアウトのために、パッキングをあらかた済ませて、夜遅い夕食に。シシカバブーのような串焼きビーフとワインを堪能。やはり、ブエノスはお肉とワインは美味しい。
10月8日(月)YOG2日目
最終日、チェックアウトしてフロントに荷物を預け、地下鉄H-D線と乗り継いでの終点のCathedral駅まで。5月広場に大きなアルゼンチン国旗が掲げられていて、その前が国会議事堂である。ピンクハウスの別名を持つ建物である。その横を抜け、水路を渡ってHiltonホテルまで歩く。工事中のところが多い。ハイウェイ新設だそうだ。YOG会場までの途中の水路では、YOG選手達がボートやカヤックの練習をしている。Women’s Bridgeというモニュメントのあるボート会場であるが、この名前には、何かいわれがあるのであろう。
YOGのアーバンパーク内は多くの子どもたちが来場していた。3x3、スポーツクライミング、Brakingと呼ばれるブレイクダンス、ローラースポーツなどのアーバンスポーツとレガッタの会場である。ここの文化プログラムは文化と言うよりは、アーバンの新スポーツ体験コーナーが沢山準備してある。3x3、アーバンを駆け抜ける種目、インラインスケート、スケボー、ローイング、などなど。多くの小中学生の子どもたちが会場に来ているのは学校の教師の引率のようである。授業を休んで良い体験になって欲しいと願うものである。
天気は最高の好天。非常に温かいし、日差しが強くて暑いくらいである。そんな中、のんびりとボルダリング競技の進行を見守っている観客達。難しいトライや成功には惜しみない拍手。3x3の競技も隣のスタジアムで進行中。歓声が良く聞こえる。ボルダリングは、日本選手達も上位で予選通過のようであった。
3x3の合間にマスコットのPandiが登場。3x3会場でバスケットのプレーやダンスを披露。その後会場外に出ると子どもたちの大人気の的に。記念写真が始まる、私も1枚Pandiと写真に収まっておいた。ローカルフードのエンペナーダを2個買って簡単な昼食に。会場内はCoca・Colaの専売。ローカルフードがあるのが有り難い。日本でもそうなるのであろうか。
午後は、3時からスポーツクライミングのリードとブレイクダンスがYOGに初登場するので、それを少し観て帰ることにする。丁度IOC総会がブエノスで開催され、2022年のYOGがセネガルの3都市で開催されることが決定。初めてオリンピックがアフリカ大陸に渡ることになる。しかし選手村が3カ所に分散されるので、どうだろうAthlete Education Program(CEP→Learn & Shareからまた名前が変わった)などの文化プログラムはどうするのであろうか?
帰りはHiltonからタクシーでレコレータ墓地に向かう。800円位なので安いものである。ホテルで大津君が1人で再びチェックインするので部屋で着替えや洗面をさせてもらい大助かり。近くのスーパーで国民的お菓子と言われるアルファロールをお土産に買い込む。再パッキングして、ガイドのマリアさんがホテルに迎えに来てくれたので車で飛行場に向かう。丁度夕方の5時、ラッシュアワーの始まりの時間。約1時間かけて空港到着。チェックインまでマリアさんに付き合ってもらう。後は空港内でショッピングと食事を。約4千円強リラが残っていたので、1杯2,000円位の高いワインを注文。国民的お菓子とマテ茶を購入。後は機内に、35時間の長旅の始まりである。
4日間の総括
短いブエノス滞在であったが、簡単に総括しておこう。
OiA ForumはIOCが久しぶりに開催した国際会議。世界の関心は高いが? 日本の関係者は? メディアはどれだけ取材に来ていたのだろうか? 日本からのメディアは読売新聞の結城和香子さんだけか? TOCOGはForumのスピーカに誰もいないし、会場でも見かけたようには思えなかった。非常に残念であるが、日本選手団が小谷実可子団長と共に会場に来ていたのは頼もしい限りであった。司会者にBBCなどのテレビメディアを用いているのは、メディア界をも取り込もうというIOCの戦略かもしれないと穿った見方も。オリンピック反対運動者や批判者をパネリストに組み入れているのも、バランスを考えているようで、実はオリンピズム賛同の声でその声を埋没させようというIOCの魂胆か? しかし、異なる意見を聞き、対話することは重要である。
OiA Forumでは、難民選手団が無くなる日が来ることを期待しつつ、オリンピズムとオリンピックの未来を語る重要性を再確認した。女性参加、反ドーピング、人権などの従来からのイッシューに加え、新招致手続きやインテグリティやe-スポーツなど、新しい課題も山積している。東京2020大会までにどれだけ進展があるか?
YOG大会自体は、開会式自体を間近で見ることができなかったのが残念であった。ブエノスの象徴であるオベリスコを上手く使ったパフォーマンスでは、若者に人気のバンジーなども用いて面白い演出であったようだ。メインステージには入れなかったため、平和メッセージがどうなっていたのか確認できないのが残念である。
YOG Park, Urban Parkの両会場とも、情報不足が何ともしがたい。2日目にはwebsiteも回復してi-Phoneから情報がゲットできたので助かるが、やはり紙ベースの情報も必要であると認識した。サーバダウンで何も分からなくなるからである。子どもたちが教師に引率されてイニシエーションプログラムとして新スポーツ体験をしているのは、なかなか素晴らしい。しかし、同時にオリンピズムについて学ぶ仕掛けも子どもたち向けに欲しいところであるし、YOGアスリートと一緒に交流するようなプログラムも欲しい所である。その点、2016年冬季リレハンメルのYOGのLearn & Shareが土日に一般市民に開放されていたのが良い試みだと思われた。今後も若者向けの競技(今回はスポーツクライミングやローラースポーツなど)が導入されていくが、同時にジェンダー・イクイティやNOCミックスなどの試みは継続して欲しいところである。e-sportはことさらスポーツと呼ぶ必要は無く、e-ゲームズで良いと思われるし、オリンピック種目にする必要も無かろう。身体運動が重要であるからである。特にオリンピズムの基本的理解とそれを普及するためのスポーツと文化・芸術、そして国際交流と平和構築に向けたプログラムの在り方は? という点でフィルターを掛ける必要があるように思われた。
(帰国後の日本のYOG報道は、ほとんど無く、あっても日本選手がメダルを取ったときの短編ニュースのみ。やはり関心はメダルしか無いのか、、。非常に残念!スイスのIOC委員のバウマン氏が3×3の会場で心臓麻痺で死去の報。次期会長候補とも目された人物、IOCのOMには痛手かも、これも残念!Olympically, NAO)