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第180回15周年記念「JOA特別コロキウム」報告

2017 年 8 月 5 日

執筆:舛本直文(首都大学東京特任教授/JOA副会長)

 

テーマ:「オリンピックのサステイナビリティ:特に「環境プログラム」に焦点づけて」
・日 時:2017年7月22日(土)13:00-17:15
・場 所:武蔵野大学有明キャンパス 1号館2F 1-207室
・主 催:(特非)日本・オリンピック・アカデミー研究委員会 JOAコロキウム部門
・協 力:武蔵野大学(会場および受付の学生ボランティア、広報等)
・参加費(資料代):JOA会員1,000円、非会員1,500円(学生は無料)
・参加者:約60名(内訳:演者・司会:5名、JOA会員20名、非会員9名、学生16名、ボランティア学生8名、武蔵野大職員スタッフ数名)

<内容>
・総合司会:谷口 晃親(JOAコロキウム部門委員)
・開会式挨拶:坂本 静男(JOAコロキウム部門副委員長)

・13:10-14:10
基調講演:石川 幹子(中央大学教授・環境デザイン・都市環境計画)
テーマ:「五輪の真のレガシーとは」:地球環境時代の東京へ
司会:舛本 直文(首都大学東京特任教授、JOA副会長・研究委員会委員長)

・14:20-17:15
シンポジウム
企画主旨説明:舛本 直文

1.オリンピック環境プログラムの現在
大津 克哉(東海大学准教授・JOA理事)
2.オリンピックの環境問題:札幌1972・恵庭岳滑降競技場建設問題を教訓に
石塚 創也(公財 日本体育協会スポーツ科学研究室研究員・JOA会員)
3.組織委員会の目指す環境プログラム
林 俊宏(公財 東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会 持続可能性企画課課長)
4.石川 幹子:パネリスト兼コメンテーター

◎パネルディスカッションおよびQ&A

・17:30-19:30
情報交換会:参加者34名
会場:武蔵野大学有明キャンパス1号館13F1-13B会議室
会費:5,000円(学生3,000円)

<概要>
石川幹子先生の基調講演では、「真のレガシー」を目指して、現在建設中の新国立競技場をめぐる環境問題について、何が問題であるのか、どのような対応をすれば良いのかのご提言を頂いた。日本の先人達が文化として築き上げてきた神宮内苑と外苑の「杜」を守るために、人工地盤の上に計画されている偽物の緑化の計画を取りやめ、巨大な歩道橋の階段を緩やかなスロープに変え、暗渠となった渋谷川を地上に再生(水循環の回復)して、周辺の平均気温も下げる(暑さ指数注)平均1.0℃、最大4.6℃程度低くなるという試算)というご提案であった。石川先生は、有明地区のセンタープロムナードの緑化事業(緑の創出事業)の担当者でもあり、これまでの多くの環境計画の実績に基づいた新国立競技場の改善案であり、傾聴に値するご提案であった。哲学無き建設計画は、本物の「杜」の継承に繋がらず、我が国が作り上げてきた文化としての「杜」を受け継いでいくことはできないというご指摘であった。

シンポジウムでは、企画説明の後、先ず、大津会員よりIOCのオリンピック環境プログラムの現状について報告された。IOCの活動の歴史的経過、IOCの取り組みの現状を紹介し、近年は「スポーツと環境会議」が開催されなくなったことも指摘された。環境問題は、「今は大丈夫、先のことだ」として、なかなか自分事にできない性格の問題であるため、理解が進まないこと。しかし本来、アスリート達やスポーツ愛好家こそは環境に敏感であると指摘し、「新しい社会づくりの力=人数X意識X行動」という公式を示して意識改革と行動の必要性を提案した。続いて、石塚会員は、1972年札幌冬季大会の恵庭岳滑降コースの環境問題を材料に、私たちが過去の環境問題から学ぶべきことについて提案された。当時、恵庭岳滑降コースの建設について自然保護の観点から議論がなされ、オリンピックでの使用後にコースを廃止し緑を復元することによって妥協した事例であるが、約束されていた自然の完全復元は未だなされていない。当時の北海道自然保護協会の立場も紹介しながら、開発と環境保護の妥協点を模索する必要があること、札幌では人的要因が環境保護には好条件に繋がったこと、環境保護は持続可能性を向上させる為の必須条件の一つであること、等の指摘があった。最後に、組織委員会の持続可能性企画課の林課長より、東京2020大会の目指す環境プログラム対策の現状と今後の方向性が示された。IOCのAgenda2020の提言4,5および国連のSDGs等の国際的状況にも対応しながら、東京2020大会で求められること、目指すべきことが指摘された。再エネ、省エネ、CO2削減などへの日本の新技術への期待、調達物品等の後利用・再利用の最大化、リサイクルの有用性の再確認、自然との共生などの提案があった他、2017年第1次の運営計画に続いて2018年3月に出される第2次運営計画では、具体的数値目標を掲げて提示される予定も紹介された。中高校生向けのサス・ボランティアを検討していることも紹介された。

全体ディスカッションでは、IOCがオリンピック影響評価研究(OGI study)の変更を提案していることが明らかになった。OGIでは評価項目が多いこと、指標が発展途上国向きであること、期間が短すぎるなどの理由で見直され、IOCの中で検討中であることもフロアから紹介された。環境プログラムと平和との関係について質問が出たり、聖火リレーや聖火台をCO2排出しない方式に変更できないか、ロンドンの環境レガシー評価など、様々な質問が出たりした。時間の関係でフロアとの十分なディスカッションができなかったが、石川先生から纏めとも言える貴重なコメントを頂いた。レガシーキューブを平面化して考えると、有形のレガシーの中で計画的でネガティブなものを考えることができるが、新国立競技場がそれにあたると指摘された。その他、渋谷川やゴミ処理の問題も平面的に位置づけることもできること、さらには時間軸を入れて考える必要性、キューブで抜け落ちているヒューマン・レガシーの発想などを取り入れてレガシーを再考する必要性などの指摘があった。

情報交換会でも、石川先生が手がけられた有明地区のセンタープロムナードの緑化と密かな仕掛けについて紹介があった。様々な方々からスピーチを頂き、有意義な時間を過ごすことができた。武蔵野大学1号館13階の会議室から眺める湾岸の夜景は絶景であり、全面的にサポートいただいた武蔵野大学の教職員学生の皆様に心より感謝申し上げます。最後に、JOAコロキウム部門の皆様のご尽力にも心より感謝して報告を締めくくりたい。

 

 

 

 

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