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オリンピックは教育の場であり人間力を高める場である

2010 年 3 月 11 日


執筆:山本尚子(ライター)

-「オリンピック」とは本来、オリンピック運動のことであって、オリンピック大会のみをさすものではない。

こういった認識が、いつしか私の中で、「真のオリンピック運動とオリンピック大会とは乖離しているものだ」という図式をつくりあげていたように思います。

今回、私は日本代表選手団の本部員として、24日間、バンクーバーの選手村に滞在し、働く機会を得ました。日本選手団の団長は、(財)日本スケート連盟の会長でもある橋本聖子氏。副団長は笠谷幸生氏、総監督は鈴木惠一氏という顔ぶれでした。笠谷副団長はウィスラーの選手村に滞在されていたので、直接、お話をする機会はあまりありませんでしたが、橋本団長や鈴木総監督のお話を間近で聞く機会に恵まれました。

お二人のそばで過ごすうちに、オリンピック大会というのはオリンピック・ムーブメントにとってもやはり最高の機会なのだと、自分の勘違いを改めるに至りました。

今大会のディプロマ(参加証)

今大会のディプロマ(参加証)

人間力の向上なくして競技力の向上はあり得ない

お二人がことあるごとに選手に語りかけていた言葉をご紹介しましょう。

「オリンピックは教育の場であり、人間力を高める場でもある。人間力の向上なくして競技力の向上はあり得ない」。(橋本団長)

つまり、「オリンピアンはただ強ければいいんだということはなく、スポーツで世界の頂点を目指していく姿勢に注目が集まり、日本中の人々に勇気や夢を与える存在であるからこそ、それを自覚して、競技力とともに人間力を高め、広く社会に明るい希望を与えていってもらいたい」というメッセージでした。

「メダルは取ってからこそが大事」というお話もされていました。獲得した達成感で立ち止まってしまうのではなく、その後の過ごし方でメダルの色が輝いたり、鈍ったりもする。自分のその後の人生において、社会貢献はもちろんのこと、メダルに恥ずかしくない過ごし方をしていってほしいということでした。

余談になりますが、加藤条治選手が銅メダルを獲得したあとに本部に挨拶に来てくれました。その際に、ボランティアのNOCアシスタントさんたちの求めに応じ、気さくにメダルを触らせてくれたのですが、「僕だけのメダルじゃないんで是非どうぞ」とサラッと発したその一言がとても心に残っています。

行動規範を遵守する

鈴木総監督は、「行動規範の遵守」をよく口にされていました。

『日本代表選手団ハンドブック』には、「日本代表選手としての規範」、いわゆる行動規範が書かれています。規範の6項目目には、オリンピック・ムーブメントについても明記されています。今大会中、シャツのすそ出し事件で大騒ぎになったこともあり、「行動規範の遵守徹底」を呼びかけるリリースがあらためて配布されました。

日本代表選手団を支えてくれたNOCアシスタントの皆さんと(筆者は前列左端の白いユニフォーム姿)

日本代表選手団を支えてくれたNOCアシスタントの皆さんと(筆者は前列左端の白いユニフォーム姿)

「選手は日本を代表する公人である。その自覚と責任を持って、競技力を発揮するだけでなく、日本代表選手団の一員としてのモラル、ルール、エチケットを守ってほしい」という行動規範は、やはり人間力の向上につながっていくものです。

チームジャパンの一員であるという自覚を持つ

もう一つ、お二人が強調されていたのは、「チームジャパンの一員として、一つのチームになること」でした。

個人種目でも、異競技であっても、「チームジャパン」の一員であるという意識・連帯感を持つ。誰かがうまくいかなかったら、誰かがカバーする。昨年5月と6月に、冬季競技の日本代表候補選手と強化スタッフが一堂に介したカンファレンスが行われたのですが、そこで生まれた一体感も、今大会でしっかり機能していたように感じられました。

自分の頭で考える

橋本団長も鈴木総監督もトップアスリートとして輝かしいキャリアを持っていらっしゃいます。そのお二人が口をそろえたのが、「スポーツ選手は自分の頭で考える能力がないとダメ。そのためにも本を読み、学び、知識を広げる努力をしてほしい」ということでした。

ロゲIOC会長もサインした「オリンピック停戦を願う壁」

ロゲIOC会長もサインした「オリンピック停戦を願う壁」

初めて、オリンピック大会のど真ん中で毎日を過ごしてみて、トップアスリートの集う大会だからこそ広く発信できるオリンピック運動がここにあるんだと感じました。笠谷副団長も含めた日本代表選手団のトップのお三方が発し続けたこれらのメッセージは、今大会のオリンピアンたちの心に響いたと思いますし、彼らがまた子どもたちに夢や希望を与える存在として、オリンピック・ムーブメントを体現していってくれると信じています。

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