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JOA会員がみたユースオリンピック

2010 年 10 月 17 日


執筆者:
桶谷敏之(嘉納治五郎記念国際スポーツ研究・交流センター)
舛本直文(首都大学東京)
和光理奈(中京大学)
大津克哉(東海大学)
和田恵子(JOA専務理事)

Blazed the trail with the Singapore 2010!

今回JOA有志の皆さんと共に史上初となるYOGを視察した。大会モットーの「Blazing the Trail(開拓する)」の通り、シンガポールはオリンピック・ムーブメントの歴史に新たな道を切り拓いた。どのような大会になるのか、直前まであまり具体的な情報が発信されてこず、その成功が危ぶまれていたが、ふたを開けてみると大成功。参加したヤングオリンピアンたちからもポジティブな反応が目立ったように思う。
今回の大会中、筆者が感じた大きなテーマ、それは「チャレンジ」である。史上初の大会、通常のオリンピックと異なる大会システム、選手選考過程、スポーツと文化・教育の融合。どれも大きなチャレンジであったに違いない。しかも2年半のうちにこれを成し遂げたのだ。世界中から多くの不安の声が上がる中、準備に携わった関係者の熱意と献身には心から祝意を表したい。2年後の冬季大会がどのようなかたちになるかはまだ分からないが、今後YOGがオリンピック・ムーブメントの重要なイベントになっていくであろう。そういった情勢を見据え、我々も柔軟に、そしてベストの体制で対応できるようチャレンジしていかなければならないだろう。(担当:桶谷)

YOG開会式

8月14日夕方、シンガポールのマリーナ・ベイの浮き桟橋会場。セキュリティチェックを受けて入場する。チケットはVISAカードと一体式。これで公共交通にも無料で乗れる新システムである。オリンピック開会式恒例の「演ずる観客」の小道具を受け取る。今回は、ライト付のハートと羽ばたく鳩、大会旗と国旗の小旗である。雨が心配なためポンチョが入っているが、飲み水とマフィンも入っているのが驚き。飲食ゾーンに行き来する人もなく、スタンドに座る観客の邪魔にならない。会場は世界最大の海上浮き舞台。湾を囲む高層ビルからサーチライトが照らされ、水と光と音を駆使する舞台装置が整っている。

YOG開会式(撮影:大津克哉)

YOG開会式(撮影:大津克哉)

開会式は13のパートから成る。テーマはユースオリンピアンと世界の若者向け。演技はシンガポールの若い歴史から始まり、新しい物語を描いていく。ブレイクダンスが多用され、怪獣を退治するテレビ活劇のような勇士たちも登場。シンガポールスピリットは地元芸能で表現され、花火と高層ビルからのレーザー光も多用した新旧文化の混交が面白いが、少々陳腐ともいえなくもない。
選手は一団となって入場。シンプルで時間もかからなくスマートである。代わりに204の国・地域のNOCの旗手が1人ずつ入場するプログラムを導入。さすがにシンガポール旗の入場では大歓声が上がる。
終盤は公式儀式と平和メッセージ。今回初めてコーチによる宣誓が行われた。若者を指導する立場の人間としてのフェアな宣誓は新鮮であった。平和はやはり鳩で表現。舞台もスクリーンも鳩。空中には風船の鳩。しかし、国連の関与が何も見られないのが残念である。
フィナーレは聖火入場。電飾のフェニックス船が聖火を乗せて海から登場。”Blazing the Trail”よろしくジグザグの浮き桟橋をリレーし舞台に到着。最終点火で会場はクライマックスを迎える。マリーナ・ベイを赤々と照らし出すシンボルが誕生し、13日にOlympic Walkという遊歩橋が開通していたが、そこが絶好の聖火撮影スポットとなった。
ユース向けとして新奇な演出もあったが、初のユースオリンピック大会としてのメッセージはあまり強くはなかった。子どもの参加ももっとアピールしてもよい。姉妹校プログラムの紹介もあって欲しいところ。YOG大使のオリンピアンもスクリーン登場だけでは物足りない。
この開会式の盛り上がりでYOGに参加した若者たちの夢と希望はどのように鼓舞されていくのか?YOGのDNAがどのように形成されたのか、今後が楽しみである。(担当:舛本直文)

YOGにおける文化教育プログラム(Culture and Education Programme:CEP)

YOGでは大会趣旨に合わせ、50以上の文化教育プログラムが同時開催された。参加選手には、以下のプログラムが用意されていた。

①オリンピアンの話を聞く会
②展示やワークショップを通じて人生におけるチャンピオンとなるヒントを得る
③各国の伝統的な遊びや文化理解
④ダンスへの参加や、オリンピックを題材とした作品鑑賞
⑤地元協賛者と社会貢献について学ぶ
⑥エコ体験の旅
⑦ウビン島にてチームで課題をクリアする。

シンガポールの生徒たちによる各国のイメージFabric(撮影;和光理奈)

シンガポールの生徒たちによる各国のイメージFabric(撮影;和光理奈)

今回は、一般向けのプログラムのみ見学が可能だった。International Convention Center(ICC)においては、近代オリンピックの歴史、過去の大会ユニフォームや競技に関する道具、聖火フォルダー、今回の大会メダル(日本人デザイン)等が展示されており、その横ではテコンドーやヨーヨーの実演、遊び感覚で学べる健康に関するコーナーなどが展開されていた。また同じビル内には、シンガポール市内の生徒が各国のイメージを一枚の布にデザインしたSingapore 2010 Friendship Fabric Exhibitionが設置されており、その鮮やかな作品群に目を奪われた。チャンギ国際空港にもYOGに関するチャレンジコーナーが設置されていた。

カラフルに仕上げられた各展示物や、催し物内容に、一般の関心が寄せられたのではないかという期待が持てた。 (担当:和光理奈)

YOGに見る地球環境問題への啓発活動

IOCは、1990年代初頭から「スポーツ」、「文化」に続いて「環境」をオリンピック運動の3本柱とし、スポーツ競技団体の社会的責任として地球環境への最大限の配慮のもとでオリンピック競技大会を行うことを公表している。自然の保全、環境保全に向けた取り組みは、もはやスポーツ界も例外ではなくなった。当然、YOGでも各種取り組みが行われており、会場内や街中ではYOGロゴの付いたゴミ箱が多くみられ、ゴミの分別が徹底されていた。

YOG開会式前日の8月13日に、開会式会場からほど近いマリーナ湾のウォーターフロント・プロムナードで植樹セレモニーが催された。セレモニーでは、各国の国内オリンピック委員会と姉妹校プログラムを行ったシンガポールの学校の児童・生徒らが参加し植樹がされた。ちなみに、各々の木にはその国をイメージしたユニークなプレートが飾られている。

CEPに参加しているアスリートたち(撮影:大津克哉)

CEPに参加しているアスリートたち(撮影:大津克哉)

14日の開会式では、『S.O.S』と題したプログラムの中で、昨今問題となっている自然の破壊、環境汚染、資源の枯渇など地球環境問題について考えさせられる映像が流れた。

また、アスリートが参加できるCEPの中には環境問題について学べるワークショップがホートパークとマリーナ・バラージュで行われていた。ホートパークでは、庭園内を散策し自然の生態系の仕組みを学んだり、ガラス瓶の小さいプランターの中に草花を植えて選手村に持ち帰り植樹をする。そして、マリーナ・バラージュでは展示やワークショップを通じて持続可能な水管理という水をテーマにした講習を受けることができる。このような体験型のプログラムによって、地球環境に関する認識を深めることが期待される。大会期間中にどれほどのアスリートがこれらの環境プログラムに参加したのか、後ほどの報告を待ちたい。(担当:大津克哉)

SYOGOCブリーフィング

シンガポール・ユースオリンピック組織委員会(SYOGOC)は8月17日、24日の二日にわたって、海外からの希望者(申込制)に対して本部でブリーフィングを行った。

SYOGOCメインオペレーションセンター(撮影:和光理奈)

SYOGOCメインオペレーションセンター(撮影:和光理奈)

17日のブリーフィングには数十名が参加(日本からは8名)。出席者の中には、YOG開催予定のインスブルックからの関係者の姿もあった。SYOGOCリチャード・タン氏による開催決定から開会までの包括的なプレゼンテーションが行われた後、参加者はメインオペレーションセンターとテクノロジーセンターを見学した。
シンガポールYOGのビジョンは、オリンピックの価値に基づいたスポーツ、文化的、教育的な体験を通じて世界の若者を鼓舞すること、そしてシンガポール人がスポーツを楽しみ、卓越することを目指し、友情と尊敬の気持ちを持つことである。

オリンピック価値である文化、教育、スポーツを統合させた世界的なマルチスポーツ大会であるYOGの文化・教育プログラム(CEP)は、5つのテーマ(オリンピズム、スキル開発、健康的なライフスタイル、社会的責任、表現)に沿って、7種類のフォーマット、50の活動がオリンピックアスリートを対象に村内だけでなく、村外でも行われる。強制ではなく、楽しむことに重点が置かれたプログラム展開とすることを基本にしたという。

選手村でのCEPの視察はかなわなかったが、村外での選手を対象としたプログラムや一般向けのプログラムを見ることができた。開会直後の一部の会場の視察ではあったが、いずれの会場でもボランティアがプログラムの重要な担い手となって熱心に活動しているのが印象的であった。

どのくらいの数の選手たちがどのプログラムに参加し、どのような印象を持ったか、またシンガポールの若者がYOGをどのようにとらえ何を学んだか、第1回YOGの成果に期待したい。(担当:和田恵子)

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