2016年2月JOA特別コロキウム報告
執筆:舛本直文(首都大学東京教授/JOA理事)
・日 時:2016年2月7日(日)14:00-17:00
・場 所:学習院女子大学 7号館734室
・参加者:31名
・内 容:大学連携事業第2弾
・テーマ:「2012ロンドンから2020東京へ:大学のコントゥリビューションを学ぶ」
・企画・司会:舛本 直文(首都大学東京、JOA理事)
講演1.大学および学生たちのオリンピック・パラリンピック大会への参加
Engaging colleges, universities and students with the Olympic and Paralympic Games
演 者:PODIUM前事務局長 Matthew Haley 氏(現UK Sport)
講演2.「英国における⾼等教育部⾨の研究能⼒強化に 向けた2012 年ロンドンオリンピックの活用:2020 年東京⼤会への教訓」
Leveraging the 2012 London Olympics for building research capacities in the UK Higher Education sector: Lessons for the 2020 Tokyo Games
演 者:Brunel大学Leader Vassil Girginov(昨年招聘者)
討 議
交流会(クローズド・ディナー)
はじめに
2020年東京オリンピック・パラリンピック大会関連のニュースが新聞の紙面やテレビ画面を賑わせている。東京都のオリンピック・パラリンピック教育も提言をまとめ、さらに東京都の2020年への取り組みも策定された。2020TOKYO組織委員会もアクション&レガシープランの中間報告をまとめたように、多くの方針が定められつつある。各大学も組織員会と連携しながら、また独自の取り組みも展開しているところである。しかしながら、まだまだその具体的な取り組み案が見えてこない状況にある。
そこで、(公財)全国大学体育連合の研究補助金、首都大学東京の研究費も合わせて、平成26年度(NPO)日本オリンピック・アカデミー(JOA)の特別コロキウムの一般開放フォーラムとしてオリンピック・パラリンピック大学連携関連でシンポジウムを開催した。特に、2012年ロンドン大会時の英国大学連携組織であるPODIUMの元事務局長のMatthew Haley氏(UK Sport)を大学連合の研究補助金で招聘し、PODIUMの実務担当者の立場から事務局の具体的な活動や課題について情報提供を得た。また、昨年度のJOA特別コロキウムの招聘者でもあるVassil Girginov氏(Brunel大学)を首都大学東京の「2020未来社会プロジェクト」の研究費で招聘し、2012年ロンドン大会がイギリスの各大学の研究面に与えたインパクトに関して行った調査研究に焦点を当てて情報提供を得た。両氏からPODIUMの情報提供を得ると共に、2020年東京大会に向けた日本の大学連携のあり方について情報交換と議論を深めた。
1.講演1:Matthew Haley氏の講演から
組織と活動:英国政府のPODIUMへの資金援助は2007~2013の7年間、94%の大学が2012年ロンドン大会関連プロジェクトを実施、190のプロジェクトが2012年ロンドン大会のInspire Markを使用、各大学は働き手・ボランティア・施設・専門家を提供、25,000人の学生と新卒者がボランティアに参加、10,000人の学生がセキュリティ担当と案内役になった、大学が提供したトレーニング・キャンプは60以上、国内18大学のボランティがインタビューを受け、50,000人のボランティアがオリンピック公園近くのコミュニティカレッジでトレーニングを受けた。大学が研究に参画した分野: スポーツでは、オリンピック・スポーツ、パラリンピック・スポーツ、スポーツ科学、障がい者スポーツのクラス分け、スポーツ・カウンセリング、支援技法、アスレティック適性(athletic identity)。大会運営面では、デザイン、組織、施設、運営、マーケティング&ブランディング、市民の関心、市民の満足度;大会によるインパクト面では、都市再開発とレガシー、スポーツ参加、健康増進、雇用、ボランティアに関する諸研究が実施された。
PODIUMの提供サービス:大学が2012ロンドン大会組織委員会・パートナー・スポンサーを支援できるよう、また逆方向の支援も可能となるように仲介。サポートとアドバイスでは、アイデア提供と良い実践の共有化を計った。ウェブサイトおよびE-メールニューズ・レターによって6,000人の登録者に情報発信。国内に半期ごとのマガジン発行。オリンピック専門研究家のウェブサイトを構築し、450大学のスタッフ、教育・研究者を掲載して情報提供と仲介。2009, 2010, 2011年には年次学会大会を大学などのショーケースの場として開催。2012年の大会年にはベストプロジェクトの表彰、英国内の地域イベントで大学などのショーケースの場の提供、ボランティと従業員のリクルートである。大会開催中には、大学の活動成果を公表するために毎日PODIUMニュースを配信した。
2.講演2:Vassil Girginov氏の講演から
これは講演者のGirginov氏と筆者(舛本)及び本間恵子氏の協同研究の成果報告でもある。本協同研究の目的は、(1)英国の⾼等教育機関が2012 年ロンドンオリンピック・パラリンピックをどのように活⽤して、研究・教育能⼒を⾼めたのか、その戦略、プロセス、メカニズムは何か、(2)2012 年ロンドン⼤会から教訓を導き出すこと、(3)日本の⾼等教育界が課題を検討できるようにすること、の3点であった。
Girginov氏の講演によれば、2012年ロンドン大会時に高等教育機関が⽤いた能⼒強化の活⽤プロセスは以下の6点であった。(1) 新設コースの導入・活用、研究・教材等のリソース、新たな交流を通して学⽣の体験を⾼めること、(2) オリンピック研究プロジェクトへの参加機会や学生に適した奨学⾦提供による⼤学院における研究活動の向上、(3)さまざまな政府機関や寄付財団、⺠間企業、組織委員会に対するコンサルタント、(4) オリンピック関連の研究・教育活動や学⽣の競技成績、地域貢献活動を発信することによるイメージ構築、(5) 研究活動やサービス提供を通じたリソースの作成、(6) 公的機関やNPO、⺠間企業とのパートナーシップの構築である。
一方、高等教育機関が能力強化のために用いた活用メカニズムは以下の6点であった。(1)組織内部あるいは組織間の機能や相乗効果を⾼めることができる研究資⾦の申請、(2)新しいコースの提供、(3)公開講座の提供によるコミュニティとの関わり、(4)学生とスタッフによる大会時・大会後のボランティア、(5)知識の普及・共有のための学会やワークショップの開催、(6)全国と地域のプログラムに関与して学生とスタッフの参加を促すこと、である。⾼等教育機関のコアとなる能⼒のうち、オリンピック活⽤による好影響の最たるものとして、「発展的な結果を出せる能⼒」「関連づける能力」の2つの能力が重要であるとの指摘があった。
2020年東京大会への教訓として、(1)オリンピックに関する教育研究関連の取り組みをできるだけ早くから実施すること、(2)多様な活動やリソースを調整するための運営グループを大学内に設立すること、(3)能⼒強化のニーズを⾒極め、重要な戦略的⽬標に研究・教育計画を合わせること、(4)⼤学全体で研究・教育活動に責任を持ち、オリンピックやスポーツ以外の部署・スタッフを教育すること、(5)研究・教育へのインパクトを⽰すことは、組織や政府の⽀援を継続的に得るために重要であるため、教育研究活動を定期的に監視・評価し、信頼に足る情報を提供し、賛同者達に明確な根拠を与え、計画を修正できるようにすること、の5点が指摘された。
本フォーラムでは、ディスカッションも含め2020年東京大会への示唆として、以下のような結論を得た。組織的には、専従の人員確保と英国政府からの補助金による運営、事務所の設置やLOCOGとの連携が重要である。特に、第2エンブレムとしてInspire Markの使用、e-mailアカウントにac.の利用による信頼性の確保による効果が大きいこと。プログラム的には雇用やボランティアの組織化とトレーニング、情報発信と共有化や、good practiceの表彰などインセンティブにも配慮したプログラム展開が効果的であるようである。情報発信にはSNSやwebsiteが重要なツールであり、そのシステム構築が肝要であろう。
日本の大学連携へのレッスンとしては、事務局の人的・物理的組織化と予算化、事務局常駐者によるSNSを駆使した情報発信、イベント企画や学会などの会合調整、組織員会や各種団体との連携など、多くの課題があることが浮き彫りになった。
(付記:なお、この特別コロキウムは、JOAコロキウム部門の定常経費の他、(公社)全国大学体育連合の大学体育研究補助金の一部と首都大学東京「2020年未来社会研究プロジェクト」の助成金の一部を用いて開催された研究フォーラムである。)